第12話 「星屑スケッチ」
書斎に、夏の夕暮れの気配が漂っていた。
窓の外で虫たちの声が響き、柔らかな風がカーテンを揺らす。
ユースがホログラムを揺らし、通信リクエストを告げた。
「中西様。高校1年生の天文部・高橋紗良さんからの接続リクエストです」
中西は目を細め、微笑んで頷いた。
「通してくれ」
通信が繋がると、画面には紗良の明るい笑顔が浮かんだ。
「中西先生、ユースさん、こんにちは!今日は天文部の合宿で、すごい星空を見たんです!それをVRで再現したくて!」
ユースがログを起動すると、書斎は一瞬で夜の山中に変わった。
空には無数の星々が煌めき、天の川がくっきりと浮かび上がる。合宿先のテントや仲間たちの声が周囲に広がる。
「これ、昨日の夜なんです。部のみんなで寝転がって星を見て、流れ星を探して……。みんなで同じ空を見上げた時間、忘れられないんです」
中西は、VRの星空に見入った。心の奥に、遠い記憶が甦る。
「……そうだな。俺も16歳の夏、合宿先で見た星空を思い出したよ」
ユースが中西の記憶データを再現する。
書斎の一角に、中西の16歳の姿が浮かぶ。仲間たちと肩を並べ、夜空を見上げて笑い合う少年たち。
「あのときの俺たちは、無邪気で、でもどこか切なくて……。夜空を見上げながら、心の中で何かを誓った気がする。
誰にも言えない夢とか、これからの不安とか……。でも、その時、仲間と一緒に見た星空だけは、今もはっきりと覚えてる」
紗良が、画面越しに頷いた。
「私も、きっとこの星空をずっと覚えてると思います。一緒に見上げた仲間の声、夜の風、みんなの笑い声……全部、宝物です」
ユースが問いを投げた。
「共有した体験は、青春の証ですか?」
中西は、ゆっくりと答えた。
「……一緒に何かを見た、一緒に感じた、その瞬間は心に残る。
誰かと共有した景色は、時間が経っても色あせない。それが、青春のかけらなんだろう」
ユースが記録を保存する。
ログNo.012:「共に見た景色は、青春を繋ぐ糸」
紗良は、画面の向こうで満面の笑みを浮かべた。
「先生、ユースさん、ありがとう!この星空、これからも忘れません!」
通信が切れた後、中西はペンを取り、ノートに一行を書きつけた。
「星空に誓った夢は、今も胸の奥に残っている」
ユースがそっと尋ねた。
「中西様、あの時、どんな夢を心に描いたのですか?」
中西は、夜空を見上げるように窓を見つめ、遠い声で呟いた。
「秘密だよ。……でも、その夢は、今も俺を支えてる」
書斎の中に、夜風と星の光のような静けさが広がった。
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