第13話 気づかなければよかったのに
村を脅かした【擬人竜】は討伐され、村人たちはその日のうちに再び元の村に戻ることができた。
気を失っていたライルもまたヘイズルの手によって手当てを受け、元の小さな家ではなく、副都の戦士たちが持ち込んだ簡易テントで休まされていた。
ライルが気を失っている間、無事を聞いて感激したレオナルドやエレンが連日やってきていたが、傷に触るということで短い時間の面会時間となっていた。
そして、【擬人竜】討伐から三日が経った頃、ようやくライルが目を覚ます。
「……ここは?」
「気が付いたか?」
目を覚ましたライルが最初に見たのは、どこか見覚えのある銀と金の鎧と赤いマントに身を包んだ戦士だった。
彼を見た瞬間に、ライルは目を見開いた。
「カイン……」
「ん? 私を知っているのか?」
「い、いえ! なんでもありません」
ライルは頭を振って呆然とした意識を戻す。
(ネームドNPC、副都のカイン。堅牢な防御で強力なNPCがなんでここに?)
ボーっとしていて、意識を失う直前の記憶が曖昧なライル。
そんなライルにカインは優しく語り掛ける。
「気分はどうだ? 傷は痛むか?」
「……少し、頭がぼーっとします」
「長い間眠っていたからな。仕方ない。少し時間が経てば鮮明としてくるだろう。もし気分が悪くなければ、このまま話を聞いてもいいかな?」
「はい……」
話をする前にライルは傍に酌んであった水を一口含む。
彼が一息つくと、カインは満足げに頷いて話を始めた。
「君の名前はライル。【擬人竜】と戦っていたことは覚えてる?」
「ええ」
「では、どうやって倒したかは?」
ライルは少し頭を悩ませ、少しずつ思い出していく。
「確か……つままれたから剣を投げて目を潰して、そのまま斧で頭を叩いた」
「……要領を得ないな。本当に君が倒したのか?」
「そう言われても……」
頭が働いていないライルは、ぼんやりとした説明しかできなかった。
カインはライルをいぶかしみ、ある提案をした。
「気分が良ければ、少し外に出て君の腕を見せて欲しい」
「……ご飯食べたい」
「ふっ」
ライルの率直な願いにカインは少し笑った。
「では腹ごしらえをしてからでいい。その間に君の心配をしていた者たちに会ってくるといい」
◆
ライルが数日ぶりに家に帰ると、中には誰もいなかった。
「レオ?」
狭い家で隠れる場所はないため、早々にライルは次の場所を探した。
行くあてはもう役場しかない。
「こんにちはー……」
いつも通り役場に顔を出した瞬間、なぜかいつもより多い役場の人たちが一斉にライルを見た。
誰もが無言で、まるで亡霊でも見たかのように驚いた顔をしていたのだ。
「え、えっと……」
静かになった役場に、ライルは思わず帰ろうかと後ずさりした。
だが直後、役場の奥から一人の少女が飛び出してきた。
「ライル君!!」
「エレンさん!?」
エレンが全力で駆け寄り、勢いそのままに抱き着いた。
傷が完治していないライルは支え切ることができずに、押し倒されるように倒れこんだ。
「いっつぅ~」
「ライル君よね! 生きてるのよね! 亡霊じゃないのよね!」
泣きじゃくりながら、押し倒したライルの顔を覗き込むエレン。
ぽたぽたとライルの顔に涙が落ちるが、不思議と嫌な気分ではなかった。
「ええ、生きてます。無事に帰りました」
「もう、心配かけすぎよ! もう!」
ライルの首に顔をうずめて泣き出すエレン。
ライルも素直に受け入れて、彼女の背中を優しくさする。
……がしかし。
「にや~」
「……なんですか、みなさん。変な顔して」
役場にいた村人全員がニヤニヤしながらライルを見下ろしていた。
地面に顔を向けて泣いているエレンには気づかない。
「ライル、優秀な血は後世に残さないといけないよな?」
「ひどいセクハラ!」
「何言ってんだ、俺たちは祝い事に飢えてんだ。めでてぇ話はいくらあってもいいだろ?」
「まだそんな関係じゃないですよ!?」
「まだだと! エレンちゃんとそうなることは確定かこの野郎!」
「めんどくさいよみんな!」
和やかな雰囲気から歓喜の場に変わるのにはそう時間がかからず、村人ほぼ総出でライルを外に引きずり出して胴上げをしだした。
「村の英雄の誕生だ!」
「竜狩りのライル!」
「このまま世界を救う男だぞ!」
唐突な展開に戸惑いつつも、ライルも悪い気分ではなかった。
何度も死にかけた戦いを生き残り、守り切った村の人から祝福を受ける。改めて自分がやり遂げたことの大きさを噛み締めて、ライルは少し涙ぐんだ。
(そうだ、レオは!)
たった一人の弟と話がしたいと、ライルは胴上げされながらも周囲を探す。
そして見つけた。
ライルを囲む輪の外で呆然と立っているレオナルドの姿を。
その瞬間、ライルの体に電撃が走った。
(あっ……なにやってんだ、俺)
一瞬でライルの中にあった喜びは消え失せて、背筋が凍った。
視線の先にいたレオナルドは、驚いた顔をすぐに喜びの顔に変えて胴上げの輪に加わった。
だけどライルの体はずっと固まったままだった。
(そうだよ……ここはゲームと同じ世界……俺が生きてちゃいけない世界だ)
胴上げが終わり、地面に足を付けてもライルの体は強張ったままだった。
「ライル? 大丈夫か?」
「どうした! 顔真っ青だぞ。もしかして酔ったか?」
「ちょっとやりすぎちまったな。役場で少し休んでいけ」
「いや、大丈夫。一回家に帰るよ。また来るから」
ライルは口を抑えながら、そそくさとその場を後にした。
「あ、にいちゃん! 待ってよ!」
背中から聞こえてくるレオナルドの声でさえも、ライルは聞こえないフリをした。
とにかく一人になりたかった。
レオナルドの顔を今見たら、きっと平静でいられなくなるから。
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