ワッフル

詣り猫(まいりねこ)

第1話

 森林のひらけた場所。


 そこだけ木がなく、自然光が降り注いでる。

 

「あ! お母さん、あれ見てー!」


 4歳の頃の広川璃人ひろかわりひとが、何かに気づいて指をさした。


 彼の指の先には、数匹のカラスアゲハがひらひらと飛んでいる。

 青黒いはねの光沢がとても美しく、自然光の中で舞う蝶たちが、神々しい光景を作っていた。

 

「綺麗なチョウチョね」


 璃人の母は、璃人にやさしい口調で言った。


「うん! お母さん、あれ!」


 璃人の指の先には、赤い花に止まったカラスアゲハがいて、静かに蜜を吸っている。


「あら、チョウチョさんもお腹が減っているのね」


 璃人の母は、そう言って微笑んだ。


「うん、そうだね!」


 と、璃人は嬉しそうにカラスアゲハたちを追って、そこらを走り回った。


「お母さん、何かこの辺甘い匂いがするね!」


「甘い匂い?」


 璃人の母は、首を傾げた。森の空気は綺麗で美味しかったが、甘い匂いではなかったからだ。


「あ! お母さん、あれ!」


 璃人の指の先には、蜘蛛の巣に引っかかったカラスアゲハの姿がある。

 蜘蛛が巣の上を歩き、そのカラスアゲハにじりじりと近寄っていく。


「あ! お母さん、ここにも!」


 璃人の指の先には、トカゲの口からはみ出したカラスアゲハの姿がある。


「あ! お母さん、さっきのチョウチョさんも!」


 璃人の指の先には、赤い花の蜜を吸っていたカラスアゲハの姿がある。

 そのカラスアゲハは花の蜜を吸ったままの状態で、カマキリに頭部をかじられている。


「お母さん、みんなお腹が減っているんだね!」


 璃人が振り返ると、璃人の母は青褪あおざめた表情で彼を見ていた。



(何で今さら、あの時のことを思い出すのだろう…)


 普通電車の車両の席で、璃人は目が覚めた。 


 午前11時過ぎの車両は、人がまばら。

 人混みが嫌いな彼は、それだけで安心した。


 璃人は2駅先の駅で降り、病院に向かった。

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