第2章 さて、これからどうしましょうか?
第1話
リリーの予想通り王都にある自宅に戻ると、荷物は既にまとめられており、そのまま荷物と共に外に出されてしまった。
しかし、父親は「最後の家族としての情けだ」とかなんとか言って国境付近までは馬車を出してくれるのだと言う。
多分、貴族の馬車に乗る事はこれが最後になるだろう。そう思うと少し名残惜しくも感じる。
「……」
そんな事を考えながらふと視線を上にした時、馬車の運転手と目があった様な気がした。多分、運転手はこうなる事が分かっていたのだろう。
そうでなければあらかじめ家の前に待機しているはずがない。
しかし、運転手の彼の責める気などは毛頭ない。そもそも彼はただただ自分の仕事を邁進しているだけだ。
ただ、心残りがあるとしたら専属メイドだったアンナの事だけだったのだが、どうやら彼女はリリーがパーティーに行ってすぐに「辞める」か「弟のメイドになるか」の選択を父親に迫られ、辞める事を選択したらしい。
本当は話とまではいかずとも一言くらい声をかけたかったところだが、彼女も彼女で大変だっただろうから贅沢は言えない。
ただせめて、彼女の後の人生が幸せである事を願うばかりだ。
「はぁ」
しかし「国境まで」と言ってもその移動時間は長い。
それは王都が国の中央部にあり、そこから国境検問所がある南部の方まで向かうからである。
ちなみにグランツ家の領地はそことは真逆に位置する国の北部の奥の方にあるのだが、父親も母親もあまり領地には帰りたがらない。
それこそ父親が「公爵家なのにどうしてこんな奥地なのか納得がいかない」と抗議をした事もあったくらいだ。
もちろん、これは昔からなのでそんな「公爵家なのに」などという言い分は通るはずもなく、第一王子に笑顔で却下された……なんて話もある。
どうやら魔物が入って来られない様に張られているこの結界が崩れたらこれを修繕する任をグランツ家が担っている事を忘れてしまっているらしい。
確かに、この結界が張られたのはもう随分と昔の話ではあるが。
「それにしても、ここまで予想通りだとかえって笑えるわね」
リリーがまとめた訳ではない荷物の中を開けると、そこに装飾品の類は一切なく、服は着古した物が二着と下着。後は……ちょっとした小物程度。
母親から「あなたの荷物は既にまとめてあるから」と言われた時点で何となく察してはいたが。
そもそも、トランクを持ち上げた瞬間すぐにその軽さでおおよその予想はしていた。むしろ中身が空ではなく、服が入っているだけでも喜ぶべきなのかも知れない。
そう思うと笑えてしまう。ただ、もちろん笑っている場合ではないのは重々承知しているが。
しかし、これで今の彼女が無一文と言っても過言ではない状態である事が確定した。
「せめて装飾品があればどうにか出来たかも知れないのだけど……」
そんな言葉が思わず漏れてしまう。
確かにそうすれば装飾品を売ってそれを元手に色々な事が出来ただけに残念な気持ちは拭えない。
しかも、通常の「国外追放」の様に隣国まで送ってくれる訳ではなく、馬車が送ってくれるのはブランド王国の国境ギリギリまでだ。
こんな夜遅い時間に国境を超える馬車は運転していない。危険すぎる。
それに……父親の先程の口ぶりと道のりからリリーは何となくこの馬車が向かっている「国境」がどこなのか察していた。
多分、この馬車が向かっているのは隣国の検問所があるではなく、その隣国とブランド王国の間にある魔物が多数生息していて誰も近づけない無法地帯があるグランツ家の領地。北部の方向であるという事を――。
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