第18話 メニュー決め2
「そろそろメニューを考えないと……」
ガーネさんに言われて外を見れば、太陽の高さが低くなってきていた。そろそろ鐘が鳴って、バサルが帰ってくる。
「痛みにくいもので、荷車でも提供できるものでしょ。商店街でメニューを見たときに、手の込んだ料理が少ないなって思ったのと、塩味が多いなって思ったんですよね」
醤油や味噌のような和風の調味料は無理でも、もう少し味にバリエーションが欲しい。
「海が近いですから塩は豊富にとれます。それで味付けがすんでしまうので、どうしても簡単な料理になるのかと。王都の方ではもう少し色々なメニューが並んでおりますよ」
クラウチ領には海があるんだった。ということは、魚も手に入るのだろうか。
荷車で販売するのだから、テーブルと椅子はない。ザックに手伝ってもらうことを考えると、座らずに食べられるパンメニューがいいだろう。
「具を包んでから焼き上げるパンって少ないんですか?」
ザックがおすすめしてくれたパンのなかには一つもなかった。
「具が中に入っているのですか? パンと言えば、おかずと共に食べるものというか……」
「じゃあ、おかずを挟んだパンはどうでしょう? サンドイッチっていうんですけど」
「サンド、イッチ? ですか? サンド?」
ガーネさんは片言を話しているみたいになっている。
もしかして、サンドイッチという言葉がない?
「元々、人の名前なんです。サンドイッチさんが作ったらしいんですけど」
カードゲーム好きのサンドイッチ伯爵が、ゲームをしていても片手で食べられるように作らせたと聞いた記憶がある。
「どのようなものでしょうか?」
「パンの間に、玉子サラダやツナマヨネーズ、キュウリとハムなんかを挟んだものです」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってください。卵をサラダにするのですか? それに、マヨ? とは?」
マヨネーズはなんで通じないんだろう?
「えっと。ちょっと待ってください。バターはわかりますか?」
「ミルクの脂肪分を固めたものですよね」
「はい。それはわかるんですね」
私の言いたいことがエマさんの知っている単語なら、自然に翻訳されているらしい。
「ソースやケチャップは?」
「ソースは料理にかけるものの総称で、ケチャップはトマトのソースですよね?」
ソースはウスターソースを想像していたんだけど、通じなかったようだ。その代わり、ケチャップはエマさんも知っているらしい。
「マヨネーズはもしかしたら新しい調味料かもしれません。簡単に作れたはずですから、マヨネーズを使った料理はどうでしょう?」
マヨネーズなら作り方を調べたことがある。中学理科で習うことに直接的な関係はないが、卒業前に授業時間が余ったらレクリエーションも兼ねてやってみようと思ったのだ。実際は、インフルエンザで学級閉鎖になってしまい、授業数がギリギリで実行できなかったけれど。
「マヨネーズとは?」
「お酢と油を玉子で乳化させて作るんですけど、玉子なら冷やしておかなくても大丈夫ですよね」
ガーネさんは『乳化』の部分でポカンと口を開けたが、すぐに普通の表情に戻った。話を進めることを優先したらしい。
「数日は大丈夫だと思います」
「あっ、マヨネーズって生で使うんでした」
「生ですか!? それはどんな!」
ガーネさんが驚愕の表情で肩を震わせている。
「お酢も入れるし、早めに食べてもらえば問題ないですね」
「生……」
ガーネさんが同意してくれない。実際に作ってみればわかるでしょ。
「というか、ツナは通じたんですね」
「魚ですよね? 大きいものは一部の漁師にしか獲れないはずです。小さいものが湾に紛れてきたときに上がるとか。ただ、生のままここまで運んでくるのは不可能だと思います」
あっ、ツナってマグロって翻訳されちゃったんだ。
「マグロのオイル漬けを使いたいんですけど」
「それなら大丈夫ですね。むしろ海のあるクラウチ領の特産として売り出せるかもしれません」
おぉ~。特産っていい響きだ。
「ハムというのは鶏のハムですか?」
「いや~、豚だと思うんだけど」
「豚肉はなかなか高価ですね。鶏をおすすめしますよ」
「鶏は無理です!」
私の注文のせいで首を括られているのを想像したら、絶対に買えない。店の裏から鶏の断末魔なんか聞こえた日には、しばらく鶏肉が食べられないかも!
「えっ?」
「直前まで生きていたと思ったら、無理です~!」
「そういうものですか?」
ガーネさんが見たこともない角度まで首を傾げている。
「一口大に切られていたら買えるかもしれないけど、しばらく鶏は無理かも……」
「切られていたら、買える? ちょっと、わからないんですけど」
スーパーの肉売場を想像する。パック詰めされていれば問題ないんだよ!
「もとの世界では、もう肉として売られていたから、もとの姿を想像するようなことはなかったの。それに比べて、魚はあの姿で売っていたから大丈夫なんだけど」
「変ですね……」
……ガーネさんにまで変な人認定されてしまった。
コンコン。
ノックの音と共に扉が開いた。
「姉様。ちょっといいかな」
泣きそうな顔のバサルが、扉の隙間から顔を覗かせていた。
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