転生したら没落寸前!? ~可愛い弟のためにも、建て直してみせます!~
翠雨
第1話 間違いなく人生最悪の日
スマホの画面から、目が離せない。
表示された女の名前。しかも、ハートマークがついている。『
彼はスマホをテーブルに伏せて置くと、何事もなかったかのようにビールに口をつける。
たとえ見えなくなったとしても、私の頭の中には女の名前とハートマークがこびりついていた。
「それ、だれ?」
想像していたよりも刺々しい声が出た。
「誰でもいいだろ!?」
「でも、だって、・・・」
ハートマーク……。
通知音がなる。
彼はすぐにスマホを持ち上げてメッセージを打ち始めた。その目尻が少しだけ下がった気がして、穏やかな表情を向けるのが自分ではないことに気持ちがささくれ立った。
「ねぇ!!」
本当は大人の女性として冷静に話した方がいい。頭の隅ではわかっているのに、ぐるぐると怒りが渦巻いて腹立たしさが押さえられない。
「ねぇ!」
彼は手を止めて、煩わしそうに顔を上げた。
「
「関係ないわけないでしょ!!」
思わず大きな声が出て、居酒屋の個室に響き渡った。個室といえども他の客にも丸聞こえで、恥ずかしいし迷惑だ。急激に怒りがしぼんでいく。
「もう、いいだろ!? いつもいつも口煩くて、オカンみたい」
オカンみたい……、その言葉が頭の中で反響する。
学生時代に付き合っていた彼氏にも、言われた言葉……。当時の彼には、悪気はなかったみたいだけど。
社会人になって仕事にも慣れた頃、今の彼と出会った。お互い忙しくて頻繁に会えるわけではないけれど、それが適度な距離感で大人な付き合いだと思っていた。
相性がいいから、6年も続いたんじゃないのか……。
彼となら、お互いの仕事を尊重しつつ穏やかな生活が送れると思っていたのに……。もう30歳も過ぎたし、そろそろなんじゃないかと、プロポーズを期待してしまっていた……。っていうか、もう31をとっくに過ぎた。仕事が忙しいんだろうといいように考えていたが、他に女がいたのか!?
「俺は
吐き捨てるような言葉が突き刺さる。
じゃあ、何で付き合っていたんだ? 付き合い出したときは、私も若かったわ!! そんな言葉が口から出そうになったが、それを言ってしまったら後戻りが出来ない気がして喉の奥に押し込める。
彼は財布の中から五千円札を取り出すと、テーブルに叩きつけるようにおいた。
「もう、終わりにしよう」
なんの躊躇もなく立ち去る背中を、私はただ口を開けて呆然と見ていた。
「はぁ~ぁ~」
大きくて長いため息が出た。居酒屋を出て駅に近い道を歩きながら、少し前の出来事を繰り返し思い出している。
彼が個室を出ていってからしばらく呆けていたが、自棄酒でも飲んでやれと普段は飲まないお酒を注文した。残っていたツマミで羽目を外して飲む予定が、一杯飲み干したところでそんな気もなくなってしまった。
明日も仕事がある。
こんなんだから、「真面目すぎてつまらない」とか、「
どうせ、オカンですよ! そっちが子供っぽいから、いけないんでしょ!!
思い出しては怒りが湧いてくる。
今回の彼には小言は言わないようにしていたのに。
学生とは違って大人っていうのもあるし、会う機会が少なかったから目に付かなかったというのもあるけれど、一番は、「オカンみたい」って言われたくなかったからだ。
それなのに! お前のオカンじゃないわ!!
もう、しばらく彼氏はいらないかも。しばらくっていうか、ずっとお一人様の方が気が楽だ。
彼氏がいないと寂しいのかと考えても、そんなことはない。
私には、可愛い生徒がいる!!
オカンみたいだからか、生徒には慕われている。
彼らの顔が思い浮かぶと、明日も元気に出勤しなければと思い帰宅を決めた。
週末の夜だからか人通りが多い。仕事帰りだと思われる集団がほろ酔いで楽しそうに歩いていた。いちゃつくカップルもいて視界に入らないようにする。
横切っていた車の流れが止まると、信号が青に変わった。
こんなときだからこそ、部活に没頭するんだからね。ついでに来週の授業準備もしてこよう。特別に実験の授業を用意したら、喜んでくれるだろうか。
見てなさいよ! と心の中で宣言して横断歩道を渡り始める。
「危ない!」
「キャー!」
「何やってるんだ!!」
「止まれ!!」
悲鳴と怒号が入り交じる。急に走り出した人。叫び声を上げる人。
思案から引き戻されて顔を上げると、目の前にはワゴン車が迫っていた。
スピードを落とすことなく、突っ込んでくる黒いワゴン車。まったく
「キャー!!」
「うわぁ!」
頭の中では早く逃げろと警鐘が鳴っているのに、身体は石になったように動かない。
あぁ、ぶつかる!
その瞬間、ワゴン車の運転手と目があった。
ニタニタと気持ち悪く笑っていた。
通り魔的な事件の後で聞く台詞が思い浮かぶ。
『誰でもよかった』
そんなヤツに殺されてたまるか!! 絶対に生きてやるんだ!!
激しい衝撃と共に、意識は暗転した。
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