22、銀の形見
「それで、リョウはどうする?」
シュウイチに促されて、リョウはしばらく沈黙した。
様々な想いが去来し、上手く言葉にはできない。
フレアの面影を欠片でもいいから感じたいと言う気持ちはある、しかし……。
(あいつは最後に『永遠を生きるより俺の胸の中で生きたい』と言っていた。それは、こういう断片化された記録片になってまで生きたいという意味ではないんじゃないか?)
リョウにとって、最後の七日間を一緒に過ごした
だからこそ、組織の大きな力によって都合のいいところだけを切り取られたものを彼女だとはどうしても思えなかった。
微かな希望にすがりたい自分の気持ちを優先することは、本当にフレアの遺志に添うことではないように思えた。
(フレアなら、なんて言っただろうな……)
リョウはふっと小さく笑った。
フレアの声が聞こえた気がしたからだ。
『泣き虫なリョウ。私は、
あと、幸せにやっているかずっと見守っていますよ?』
(ああ、そうだな……。お前はずっと、俺の近くにいたんだな。お前には一生頭が上がらない。永遠の俺の相棒だ)
リョウは、黒い双眸で星屑のように輝く銀の欠片を見た。
そこには、ひとつの決意があった。
*
リョウは静かに、でも確かな口調で話し出す。
「俺は
狂彗星爆破の最終任務に一緒に同乗した、あのフレア=フラッシュだけが、リョウの愛した女性だった。
同じ出来事は2度とはない。
だからこそ、目の前にある
「このチップは、フレアじゃない……」
「いいのかそれで?」
シュウイチが真っ直ぐに問う。
エイジと聞き耳を立てていたレンも
「ああ……。あいつの声も笑顔も、温もりも心も、俺のここにある」
リョウは胸に手をあて、シュウイチを見返した。
穏やかな笑顔にもう迷いはなかった。
養父にフレアのことを聞かれたとき、リョウは心の中で『愛していた』とつぶやいた。
自分では分からなかったが過去型で言ったそれは無意識の言葉だったが、レンと過ごす間に心の傷が少しずつ癒えていたから思えたことだったのだろう。
リョウはフレアのこと忘れたわけではない。
けれど、レンのまぶしい笑顔が今の自分を支えてくれてることも感じていた。
リョウはレンに、惑星レゼンの逃避のとき、必ず帰ると約束した。
今度は約束もせずに地球へ来たが、リョウはあの星へ、惑星パームへ帰りたいそう思っていた。
(俺は、あの常夏の惑星でレンの笑顔を守りたい。
フレアは、俺をとがめるだろうか?)
彼は、首を振った。
『
都合のいいはなしかも知れないが、リョウにはフレアのそんな声が聞こえた。
「そのチップは、フレアの一部ではあるかもしれないが、俺の知ってるフレアではないんだ。だから……」
欠片とは言えチップを処分してくれとは言えなかった。
リョウの中でフレアは、ただ
青春をともに過ごしたかけがえのない存在だ。
相棒で、恋人で、命を救ってくれた恩人。
その人が自分の代わりに死んだことをリョウは、受け入れた。
リョウにとって、目の前にある電子片はフレアではない。
しかし、フレアの一部ならば……。
「俺では復元はできないのだから、俺が持っていても何の意味はないんだが……。
以前の愛機も狂彗星の任務の船も、欠片も残ってないんだ。当然、
リョウの瞳からは、涙があふれた。
ああ、またフレアに笑われるな。
でも、これが本当の別れだ。
許してくれるだろう?
「だから、
シュウイチは、予想していたというようにリョウに銀の
それは、それは長く保管していたためなのか別れを惜しむようにも見えた。
『ただいま、リョウ。愛してる』
声と共に、幾億もの輝く星々を背に、聖母のように微笑むフレアの最後の姿が思い出された。
(ああ、これからお前を胸に宇宙を旅しよう)
リョウに手渡された電子片は、ひやりと冷たかったが手の中で次第にぬくもり、銀河の星のように輝いて見えた。
*
リョウが研究所を出ると、外にレンがうずくまっていた。
しかも、子供のように大声を上げて泣いている。
「レン!? どうして、お前こんなところにいるんだ?」
リョウは驚いて、目を擦った。
「だまって惑星パームで待ってるなんてできないよぉぉぉ」
「お前らしいというかなんと言うか……。でも、なんで泣いてるんだ?」
なぜ、レンがここにいるのかリョウは不思議に思ったが、彼女のあまりの号泣ぶりにそれどころではなかった。
「だって、リョウ辛いでしょ。悲しいでしょ?」
レンが大粒の涙をこぼし、ハンカチで鼻をかみながらリョウに聞く。
その姿に拍子抜けしながらも、レンのいつもと変わらぬ無邪気な様子に安心した。
「話を聞いてたのか? まあ、いい。でもお前にとっては、そんなに泣くほどのことじゃないだろ」
「なに言ってるのよ! リョウがあんまり泣かないから、私がかわりに泣いてあげてるんでしょぉぉ!」
意味の分からない理由で、泣き続けるレンに苦笑しながらも、リョウは優しく彼女の小さな頭を抱き寄せた。
長い金の髪からは、 懐かしい太陽と潮の匂いがする。
それは、とても心地良く感じられた。
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