7、危険な漁

 

 リョウの海賊としての初仕事は簡単な遺跡盗掘のはずだった。


 海賊の仕事というと語弊があるが、ハルたちの言う海賊業は他船からの強奪ではない。

 まれに、私腹を肥やした悪党から強奪する場合もあるが、それは稀なケースで大半は『盗掘』だ。


 ホテルの閑散期には、遠出をして良い漁場へ行く。

 この場合、良い漁場とは高値で闇取引される遺跡の盗掘品などが入手できる辺鄙な惑星や廃衛星都市ロストコロニーのことだ。


 大物を狙いに、海賊船ティアマト号は惑星パームの裏宙港からひそかに出航した。




 ★




 超古代異星人の遺跡。

 小惑星レザン。


 レザン星人は、太陽の周回軌道から外れたこの星を捨て、ほかの星へ移住したとされているがその後のことはよく知られていない幻の種族だ。

 しかし、その文化水準の高さは一部の熱狂的な収集家の間では垂涎すいぜんものとして、莫大な金額で取引されている。

 芸術だけでなく、科学的な分野においても現在の地球水準レベルをはるかに凌ぐものがあるらしい。


 この水晶のような氷で閉ざされた、凍てついく惑星に未知の宝が眠っている。

 管轄している政府は、まだ調査段階で、警備はかなり手薄であった。

 価値も分からない、好事家こうずかの遊びのために辺境惑星に警備の手を裂くわけがなかった



 ★



「ああ、こんな寒い星イヤ! 仕事が早く終わってよかったね」


 レンは船にもどると、船内温度を惑星パーム並みまで上げてパッと毛皮のコートを脱いだ。


「大漁大漁! この星、環境は悪いが穴場なんだよな」


 ハルも満足そうにガハハと笑う。

 海賊船ティアマト号は十数人で構成されている。

 まさか、漁師や酒場、レストランも観光案内所の職員まで、隣近所全部が海賊船の乗組員クルーだったとはリョウは夢にも思わなかった。

 そして、聞けば海賊仲間が救命艇で漂うリョウを助けたとか。

 ひと働き後にどんちゃん騒ぎで、歌ったりしているこの乗組員クルーたちが……。


「はぁ……」


 いまさらながら、こんな陽気な奴らの仲間になると言ったことを少々後悔していた。  




 ★




 この船に乗ってリョウが驚いたのは、宇宙船の仕様だった。

 宇宙船ティアマト号は、見た目こそ中型の旅客船のようだったが、乗船すれば中身は歴然とした戦艦だった。

 高性能の主砲があり、小型戦闘機、発射台カタパルトまで搭載されていた。


 そして、まだ未確立と言われる短距離ワープ機能があった。

 長距離のワープは助走距離さえあれば可能ですでに限定的に運用されているがとても貴重だ。短距離のワープは、要望はこそは高いものの技術は確立されていなかった。

 なのに、この海賊船には『短距離光速移動スキップ』などと言う軽い名称で短距離ワープ機能が存在していた。

 聞けば盗掘品である異星人の遺産レガシーだとか。

 それを整備し使いこなす乗組員の腕も只者ではない。昼間はご近所商店街の店員だというのに、乗船すればリョウが何を聞いても答えてくれる一流の技術者ばかりだった。


 遺跡の探索も海での漁の仲間が、手際よくトラップを解除し案内してくれ、なんとも心強かった。

 家業と言ったのも頷ける。みんな熟練の海賊だった。


(俺は必要なのか……? 役に立てることがあるのだろうか?)


 リョウは、にぎやかに盗掘品のお宝を品定めする海賊たちを眺めた。


「ちょっとリョウ、なに浮かない顔してるのよ!」


 レンに背を叩かれ。リョウは我に返る。

 折角の祭り騒ぎに水を差すのはよくない。

 リョウは笑いでごまかした。


「いや…レンが若頭なんて、大丈夫かなぁと思ってさ」


「何言ってるのよ。心配なんて何にもないじゃない!」


 レンが胸を叩いて言い切る。

 その様子は、むさ苦しい男どもばかりがいる船内でティアレ《くちなし》の花が咲いたように可憐に見えた。



(この細腕で海賊の若頭だと言うのだから、心配で目が離せないじゃないか……)



 リョウは苦笑いしながら船外の遠い星を見た。


 その目に、キラッと何か光るものが映る。


 星々の間に、人工的な反射が見え目を凝らした。



(なんだ、あれは!?)



 リョウの失われた記憶が、危険なものであると激しく警鐘を鳴らす。


 あれは、宇宙軍警備艇の機影だ!



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