第2話 張り子の黄金
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
駅舎から出た瞬間、ユウは思わず息をのんだ。
――高い。
見上げても見上げても終わらない黒い壁。
無数の窓が光り、夜空の星よりも強く瞬いている。
白無窮とは、まるで世界が違う。
「スマラグドス、ようこそネ~!」
リンが呼んだ案内人――
レースのベール越しに笑顔をのぞかせるジェーンが、
白いワンピースをふわりと揺らしながら跳ねるように近づいてくる。
隣では、陸用スーツを着せられたカケルが
袖をちょいちょい引っ張って落ち着かない表情をしていた。
「すごいですよ、ユウ! ビルが……なんか、全部、剣みたいに尖ってます!」
「う、うん……ぼく、こんなに大きい建物、初めて……」
胸がどきどきする。
怖さでも、興奮でもなく、その両方。
ジェーンに連れられ、三人は魔灯の歩道を進む。
人の数、音、光――すべてがユウの世界を埋め尽くしていく。
ふと、ショーウィンドウが目に入った。
そこには、光沢のある黒のジャージ。
胸元には金文字のロゴ“MONARDAPRIME”。
どこか偉そうな光を放っている。
「……あ、ジャージだ」
思わずつぶやく。
(母さん……ジャージ好きだったな)
父さんが小屋にいた時はワンピース姿だったが、仕事で小屋を離れてからはヘタったジャージをいつも着ていた。
けれども、あんなふうにくつろぐ母の姿は、大好きだった。
値札をのぞく。
「…………」
数字の桁が、ユウの常識を静かに飛び越えてくる。
「え、えっと……」
「高すぎませんか? これ?」
横からカケルが顔を寄せてくる。
しかしその目は商品ではなく“縫い目”に向けられていた。
「ユウ、これ……生地、とても硬いです。触らなくても分かります。
あと縫い目、ほら。雑ですよこれ。糸が出てます。」
カケルはショーケースに指を近づけ、
職人のような真剣な目で観察する。
「なのにこの値段で売られてるなんて…
ぼったくりですよ。」
「そうネ~! モナルダで作ラれたっテだけで高いネ~!」
明るく笑うジェーン。
その笑顔は軽やかだが、目の奥が少しだけ冷たい。
「でも人気あるヨ。着るだけで“真のモナルダ人”なれるからネ」
(――見た目だけ)
カケルの小さなため息が、ユウの胸に引っかかる。
この国の光はまぶしい。
でも――
光の裏にある影も、同じくらい濃かった。
2
とある高層ビルの一室にて。
マダムは白い手袋越しにボトルを持ち上げ、ロスティスラフにグラスを差し出す。
「どうぞ、召し上がって。
モナルダ産じゃないから安心してね」
口調は軽いが、意味は重い。
「最近のモナルダのワインったら、もうひどいものよ。
香りは立派、値段は一流――でも味は“薄めた虚栄心”そのものだわ」
ロスティスラフは、細く息を吐き、ただ静かにグラスを受け取る。
治安統制庁 監察官長 として、外交上の棘は飲み下すしかない。
「……本題を伺いましょう」
マダムは唇に落ち着いた笑みを浮かべ、椅子へ腰掛けた。
「あなたがここにいる理由は分かっているわ。
**治安統制庁を通じて依頼したのは、私たち“モナルダ政府”**よ」
彼女の声には、政治の裏側に立つ者の落ち着きがあった。
「建前では各国の治安維持を監査する国際機関――
でも、あなたが“魔女”に精通しているのは有名でしょ?」
ロスティスラフのまなざしが鋭く揺れる。
「……それで、私に白羽の矢が?」
「ええ。
スマラグドスに巣くうとある魔女を、この街から追放してほしいの。
そして、あの女が保有する“門”の回収。
可能なら、国家管理下に置きたい。それだけ」
ロスはグラスを傾け、深い赤を一口飲む。
「対価は?」
「不要よ。
あなたはあくまで“治安統制庁の監察任務”として来ている。
こちらがあなたに支払うのは筋違いでしょう?」
涼やかに断言し、マダムは脚を組む。
「私たちは、ただこの街を守りたいだけ。
――あなたの力が必要なのよ、ロスティスラフ監察官長」
ロスは、しばし沈黙したのち、ゆっくりと頷く。
「……承知しました。
治安統制庁の名において、調査を開始します」
マダムは満足げに微笑み、グラスを軽く掲げた。
「では、“宴”の最中で片をつけましょう。
あの
乾いたグラスの音が、薄闇に冷たく響いた。
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