【第3部】反逆の証明

第16話 反応する声

「対象RG-01、即時排除処理を開始します」


 機械音声が無感情に響いた瞬間、保守室の天井が割れた。

 複数のドローンユニットが侵入し、レーザーセンサーがリオを照準する。


 蓮がリオをかばうように立つ。


「逃げるぞ!」


 だが――次の瞬間、リオが小さく首を振った。


「もう、逃げない」


 彼女の声は、低く、静かだった。

 けれどそれは、確かに世界の表面を震わせた。


「この場所が、私を“存在しないもの”にしたなら、

 私が“ここにいる”って、証明してみせる」


 リオは、ゆっくりと口を開く。

 その唇から漏れたのは、言葉ではなく――**“純粋な音”**だった。


 波動のような、それでいて鋭い震え。

 その声が空気を揺らした瞬間、保守室の天井が軋んだ。


 ドローンのセンサーが暴走し、制御パネルが火花を散らす。

 非常灯の赤が、音の衝撃で一瞬、白に変わる。


「リオ、やめ――!」


 蓮の制止を超えて、リオは一歩、前に出た。


「これは、“壊す”声じゃない。

 これは、“元に戻す”ための音」


 世界に嘘をつかれ、消されたすべての“記録”を、

 彼女の声が――呼び戻そうとしていた。


 パネルがバチンと弾け、破壊されていたはずの映像が再生を始める。


 消去された教室の記録。

 存在を抹消された生徒たちの笑顔。

 そして、名もなき少女が“リオ”と呼ばれていた瞬間――


「やっぱり……君は、世界の法則を揺るがす存在だったんだな」


 蓮が息を呑む。


「でも、その力はきっと――

 誰かの“存在”を救うために、あるものだ」


「……そうだね」


 リオの足元で、砕けた目覚まし時計がまた小さく音を立てた。


“カン”。


 時が、動き始めていた。


 天井のドローンが一斉にシステムダウンし、警報が途絶える。

 空間が、音に応じて書き換えられた。


 誰もが「いない」と言った存在が、今ここに、確かに“いる”。


「わたしは、ここにいるよ。

 リオとして、“ちゃんと”ここにいる」


 その言葉に、空気が答えたようだった。


 遠くで、何かが崩れるような音が響いた。

 それは学園全体を包む“枠組み”――ルールそのものが、ひび割れていく音だった。

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