第12話 学園の裏法則

 この学園には、明文化されていない“裏の法則”が存在する。


 表向きには「能力に応じた適正な評価」「平等な機会の提供」。

 だが、実態は違った。


 リオと蓮は、旧管理棟の地下にある封鎖区画――「データ保管庫」に潜り込んでいた。


 薄暗い部屋。廃棄された端末。

 埃をかぶった棚の奥に、隠されていた紙媒体の記録があった。


 蓮がページをめくりながら呟く。


「これが、ローランク制度の起源らしい」


 記された文書には、こう書かれていた。


 > “学内秩序維持のため、能力不安定者および規格外存在を分離管理する。

 識別対象には『記録不能』のラベルを付し、観測不可とすること。

 ※必要に応じて記憶改変措置を実施”




「つまり、“存在していないこと”にすれば、全て丸く収まるってわけか」


 蓮の声には、怒りが滲んでいた。


「こんなの、教育じゃない。これは“管理”だよ」


 リオは黙って頷く。

 これまでの違和感が、すべて線で繋がっていく。


 自分が声を出すたびに起きた異常。

 記録に残らない存在。

 出席番号の空白。

 消えた生徒たち。


 すべては、“ルールの外側”を排除するためだった。


「そして――その最たる存在が、君だったんだ」


 蓮の指が示したのは、文書の末尾に書かれた一文だった。


 > “特異個体 LAWLIN-01:本来、学園内に存在してはならない。

 構造法則への干渉を確認。早期削除を推奨。”




 LAWLIN-01。

 彼女のことだった。


 リオは、胸の奥に小さな痛みを覚えた。


 自分が、ただ“生きている”だけで、世界の枠を歪めてしまう。


 だから、消された。


 だから、誰も声をかけなかった。


「……でも、それっておかしいよ」


 蓮が、まっすぐリオを見た。


「ルールって、誰かのためにあるはずだろ?

 人を守るためのものじゃないのか?」


 リオは、小さく笑った。

 それは、この場所に来てから、初めて見せた“微笑”だった。


「ありがとう、蓮。

 あなたが“存在していい”って言ってくれるなら、

 私は――もう、黙っていない」


 彼女の声は、小さく、しかし確かに響いた。


 静まり返った保管庫の空気が、わずかに揺れた気がした。


 それは、ルールの崩壊が始まる、ほんの前触れだった。

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