第15話 声なき中枢

 黒柱の立ち昇る方向、それは廃都ゼレク・ファルス――かつてギア=テクトの研究拠点だったと言われる、封鎖された死の地だった。


 「なんか、空気がヤベーな……」


 山道を進むナオヤは、肩にかけたツールバッグを揺らしながら周囲を見回す。あたり一面に広がる黒い苔のような地層、それが足音を吸い込んで静寂だけを返してくる。


 「魔力圧……異常に高いわね。まるで、大規模な魔導炉が地下に眠ってるみたい」


 アイナが冷静に言った。


 「それって、つまり――超でっけぇ“お宝”が眠ってるってことじゃん?」


 「……あなたの辞書、“警戒”のページ、破れてない?」


 「最初から存在しないんだよ、“燃える展開”の前には!」


 そう言って、ナオヤは廃都の中心部に続く階段を駆け下りていく。


 その最深部、光黒柱の根元には、機械化された巨大な扉がそびえていた。刻まれた文様は――ギア=テクトの中でも、軍事研究を一手に担っていた《機構封印式(マギア・ロック)》だ。


 「おいおい……ここ、今までで一番“禁忌”っぽいじゃねーか。いいねぇ、燃えるわぁ……!」


 「……ロック解除、試してみる。少し時間がかかるわよ」


 アイナが魔導式端末を起動し、封印文様のパスワードを探していく。だが、その途端――ナオヤのポケットから紅い光か延びた。


 《――応答ヲ検知。コア・アクセス:認証コード【N-RS2】確認……招致ヲ開始スル――》


 「うおっ!? 今の、声……?」


 空気が揺れた。空間そのものが共鳴するような、無機質な、けれどどこか懐かしい声だった。


 扉が音もなく開き、彼らを待っていたかのように、冷たい空間がその内側に広がる。


 「何?……今のコード。何かが読み込まれたわ」


 「えっ、まさか――ルビナが何かした……?」


 「その可能性は高い。ここは、あなたを“迎え入れる”ために――存在してた」


 地下のフロアは、武器で埋め尽くされていた。半球状の中枢部には無数のホログラムパネル、中央には人型の“機構”が静止していた。表面は半壊しているが、コアはかすかに発光している。


 そして、ナオヤの脳裏に、ふいに“言葉にならない”情報が流れ込んできた。


 (――あれは、記憶か? 違う、これは……意思?)


 「このコア……俺に、何か伝えようとしてんのか……?」


 ナオヤが歩み寄り、手を触れると、次の瞬間――視界が光に包まれた。


 ◇ ◇ ◇


 そこは、時間の流れがない空間。


 ナオヤの前に、“機械仕掛けの少女”が立っていた。瞳は青白く、表情は無い。けれど、どこかで見たような面影。


 《――アクセス承認。あなたは、第二観測対象“ルビナの、ギア=テクト・認識コードにより、接続完了》


 「……観測対象?」


 《我は、制御端末“レイア”。黒機律(ノワール・オーダ)制御中枢。かつて、世界を滅ぼした禁忌群体の《鍵》》


 ナオヤの背筋が凍った。


 「……世界を、滅ぼした……?」


 《あなたの存在が、この空間の“再起動”条件を満たしました》


 《問います。あなたは、この力を――再び起動しますか?》


 静かな声が、響く。


 ナオヤは、じっと機械少女を見つめた。


 (これは、選択だ。前の俺なら、たぶんビビって逃げてた)


 でも、今は違う。


 「……知らねー機械に“運命”とか押しつけられんのは、あんまり好きじゃねぇ。でもさ――」


 ナオヤはニッと笑った。


 「“作れる”ってんなら、俺は使うぜ。世界を壊すんじゃなく、“面白く”するためにな!」


「認証確認、一次ロックを解除します……」


 その瞬間、機械少女の瞳がわずかに揺れ、音もなく彼女の姿が消えた。


 そして目の前の機体が、ゆっくりと光を帯び始める。


 ◇ ◇ ◇


 現実に戻ったナオヤの前には、黒い機体があった。


 「……おいおいおい。これ、完全に“次の主役機”ってやつじゃん」


 「ナオヤ! 何これ!」


 アイナが駆け寄る。ナオヤは満面の笑みを浮かべながら言った。


 「リビルドの新型パーツ、ゲットだぜ……!」


 “禁忌”と“創造”が交差する、新たなクラフトの幕が、いま開く。

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