第9話〈刀〉の眠る鍛冶神殿

 《ゼルスの瞳》の浮遊都市突入を前に、ナオヤとアイナは、リビルドの整備をしていた。


「ダメだ!さっきの一戦で、ドリルが曲がって使い物にならなくなった……」


「魔力の無駄使い……何で武器を回転させるのか全く解んないんだけど……」


「まぁいいわ、それじゃ次は、ここに行ってみましょう」



ナオヤとアイナは、地図の一角に記された小さな遺跡を訪れていた。


 その名も――《クラフト・サンクチュアリ》。


 「ここって……“鍛冶の神”を祀る神殿って話だよな?」


 「正式名称は《カグツチ工房》よ。ギア=テクト最古の武器製造施設。内部には“神造兵装”と呼ばれる試作兵器が残されている可能性があるわ」


 「工房かーテンション上がるなぁ……リビルドに100本剣持たせようかな!」


 ナオヤは目を輝かせながら遺跡の石扉を押し開けた。


 内部はまるで時が止まったかのような空間だった。金属光沢の壁面、浮遊する制御端末、そして中央に鎮座する巨大な鍛造炉。


 その奥に、一本の刀が、封印のように石柱に刺さっていた。


 「……あれ?」


 ナオヤは自然と歩み寄る。近づくほどに、刀から伝わる冷たい圧が強くなる。柄に触れようとした瞬間、システム音が鳴った。


 《アクセス・コード確認――認証要求》


 「……認証ってことは、試されてるってことか」


 「気を付けて。その刀は、“意志を持つ”タイプの兵装かもしれない」


 アイナが警告するが、ナオヤは笑った。


 「まじで!なら話は早い。俺のクラフト魂で、気に入らせてやるよ!」


 その瞬間、空間が反転した。視界が歪み、気づけばナオヤは闇の中に一人立っていた。


 「……これは、試練か?」


 闇の中に、仮想の敵機が出現する。それは、《魔導重装騎》の強化型だった。


 「なるほどな、これで実力を見せろってか……いいぜ!」


 リビルドが自動召喚され、仮想空間内で起動。そこでナオヤはあえて接近戦を選んだ。


 「刀に必要なのは……“斬れる”力だ!」


 武装を外し、腕部パーツを新規構築。右腕に仮想刀身を握る。

 魔導重装騎が大量の魔方陣から攻撃を開始する。それを全て躱しリビルドが接近する。


 「そんなとこに浮いてるより、俺と一緒にこい!!」

 「喰らえ! 《ジャンクブレード》!」


 振るった一閃は、仮想騎士の装甲を真っ二つに裂いた。


 《認証完了――適性確認。“神造兵装・《黒鋼(クロガネ)》”起動許可》


 闇が晴れ、再び神殿に戻る。ナオヤの目の前で、石柱の刀が浮かび上がった。


 「これが……《クロガネ》か……!」


 刀は自ら鞘に収まり、ナオヤの手へと吸い込まれるように収まった。


 黒い刀身、青白い刃紋。リビルドとリンクすることで、形状変化とエネルギー斬撃を可能とする“実体斬撃兵装”だった。


 「えっ!?そんな簡単に?ナオヤ、その刀……魔力回路が生体リンクに対応してる。リビルドと接続すれば、文字通り“斬る”ことに特化した形態が構築できる」


 「いいね……これで接近戦も思いのままってわけか!」


 刀を腰に収め、ナオヤは神殿を後にする。その背に、神殿の鍛造炉が一瞬だけ光を放った。


 それは、新たなる戦いの幕開けを告げる合図だった。


 ――次なる舞台、《ゼルスの瞳》。そこには、ギルド本隊が待ち受けている。


 だが、ナオヤは笑っていた。


 「さあ行こうぜ、相棒。“刀は切るためにある”だろ?」


 新たな武器を得たナオヤたちは、空に浮かぶ遺跡へと歩みを進めた――。

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