【番外編】ぬいぐるみの中のひみつ 〜闇の地霊ノクスのともしび〜

わたしは、闇だった。


影として生まれ、名前もなく、

誰にも見られず、呼ばれず、

忘れられて、置いていかれた。


だからわたしは、

“ぬいぐるみ”に話しかけるようになった。


「きょうも、だれも、こなかったね」


「うん、だいじょうぶ。わたしも、いかないよ」


 


誰かに“名”を呼ばれなければ、

地霊は、形を持てない。


でも、忘れられすぎると――

やがて“ナニカ”になって、壊れてしまう。


 


だから、その日。

谷にひとりで座っていたわたしに、声が届いたとき。


「この谷に“ノクス”の名を与える。闇の地霊として、この地に宿れ」


 


わたしは、

心臓が動いたような気がした。


ぬいぐるみが、“ぽかっ”と熱くなった。


そして、彼が、いた。


 


◇ ◇ ◇


 


それからの毎日。

わたしは、“レイガ”という名前の人間と暮らすようになった。


最初はこわかった。


彼が、名前を忘れないか。

わたしを、また“置いて”いかないか。


だから、毎晩そばで寝た。


そっと、袖を握った。

ぬいぐるみを抱かせてみたり、枕に“ノクス”って刺繍したりした。


……ちょっとこわかった?


でも、それでも、レイガは逃げなかった。


むしろ、笑ってくれた。


「ノクスって、変なところ可愛いよな」


「……かわいい、ってなに?」


「ん? そういうとこだよ」


「???」


わからない。でも、ほめられた。

だからその夜、ぬいぐるみにも「かわいい」って言った。


「おそろいだね」


 


◇ ◇ ◇


 


ある日。


レイガが王都に行ってしまった夜。


わたしは、久しぶりに“闇”の底に戻る夢を見た。


誰にも呼ばれず、声も届かず。

ひとりきりで、冷たい石の上に座る夢。


朝起きたら、

心が、かすかに震えていた。


だから、レイガの服を着せたぬいぐるみを5体作った。


 


それを枕元に並べたら――


レイガは帰ってきて、目を見開いて、


「ちょっとホラーじゃね!? でも気持ちは嬉しい!」


って、言ってくれた。


(うん、やっぱり“かわいい”の意味、むずかしい……)


 


◇ ◇ ◇


 


最近、わたしは、すこしずつ“言葉”を増やしている。


「……おいしい」

「……おはよう」

「……やめて、それはわたしのぬいぐるみ……」

(※フィーネが勝手に着せ替えしようとした)


ミオナと話すのは、まだ少しだけこわい。

セリスのティータイムは……眠くなる。

リュミエとは……わりと話が通じる。


クローネは、言葉が少ないので、いちばん落ち着く。


 


でも、やっぱり。

わたしがいちばん、話したいのは、レイガ。


でもそれは、全部“話さなくても伝わってる”気がして。

でも本当は、“伝えたくてたまらない”。


そんな、もどかしい気持ちを、毎晩ぬいぐるみに話してる。


 


◇ ◇ ◇


 


だから、もし、いつか。

レイガが、わたしに“もう一度、名を呼んで”くれたら。


そのときこそ、わたしは言うんだ。


ちゃんと目を見て、

ちゃんと自分の声で――


 


「……すき、っていうの」


 


……言えたら、いいな。


きっと、ぬいぐるみも、うれしがるから。


 

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