第22話 決闘の行方
決闘は冒険者ギルドの訓練場で行う事になった。
向かい合う私とヴィアラッテさんを、多くの野次馬が囲んでいる。
「さあさあ! もうすぐ締切だよ! その実力は折り紙付き! 数々の高難易度依頼を達成してきた、冒険者ギルドファスト支部のエース! 七種の武器を操る戦姫ヴィアラッテ! 対するは、彗星の如く現れた月の使者! 龍種を隷属させるという、前人未到の大偉業を成し遂げたスーパールーキー、ホシミヤ・ルキア! どっちが勝つのか! 一口1000Mからだよ!」
賭けまで行われている。もう完全に冒険者達の娯楽にされてるよ。
「ボスに5000Mなの」
「ウチもっす」
なに普通に賭けてんの? ステラさん? 貴女保護者役でしょ? ちゃんと見ててよ。
「ルキア様に10万Mです」
アンタもか! てか、10万って! もし私が負けたらどうすんの!
「ルールは相手を降参させれば勝ち。僕が勝てば、君のパーティーに入れてもらう。君が勝てば、僕は二度と君に付き纏わない事を善処するよう前向きに検討する事を約束する」
私が勝ってもメリットがない。いや、ステラ達がお金を賭けてるから、一応儲けはあるのか。
オッズは2.5倍。私が勝てば10万Mが25万Mになる! 俄然やる気が出てきた!
「いいですよ。ただし、一本勝負、貴女が使う武器は一つだけにしてください」
「決闘を申し込んだのは僕だ。そのくらいの条件はのもう」
私のランクはイグニアの魔力込みでの数値。実際にはランクも経験も相手の方が数段上。
なら、開始早々奇襲で決めるしかない。
「では、僭越ながらこのゼニスが決闘の立ち合いを務めさせて頂きます」
いや、なにやってんの? こんな所で遊んでないで、仕事しなよ。
あれ、よく見たら賭けを受け付けている人、ギルドの受付で見た事あるぞ。ギルドが胴元かよ。くっそー、見物料取るぞ。
視線をヴィアラッテさんに戻すと、ヴィアラッテさんは右手を前に突き出した。
「『召喚、エクスキャリバー』」
ヴィアラッテさんの右手に黄金に輝く長剣が収まる。無駄な装飾ないその剣は、色以外は地味と言える。
てか、発音いいな。
「このエクスキャリバーは僕の相棒なんだ。僕は別空間に一〇〇以上の武器を保管しているけど、エクスキャリバーだけは特別だ。僕とエクスキャリバーは、共に幾多の戦場を超えてきた。エクスキャリバーがいなければ、僕は今ここに立っていないだろう。エクスキャリバーは僕であり、僕はエクスキャリバーだ」
なんか語りだしたけど、キャリバーが気になって頭に入らない。
「おい、あれって」
「ああ、聖剣エクスカリバー。実物は初めてみたぜ」
「ふん、聖剣エクスカリバーか。名工イストスが最高傑作と豪語する世界最高の長剣。元は銀色のシンプルな剣だったが、所有者であるヴィアラッテの陽属性の魔力が剣に滲み込み、黄金に輝く聖剣と成った。SSランクの魔物、ダイアモンドゴーレムを両断したという話はあまりに有名だが、真にエクスカリバーが力を発揮するのは、妖怪種を相手にした時だ。ヴィアラッテの魔力によって魔法剣となったエクスカリバーは、実体を持たない妖怪種すら斬る。世界最高の名にふさわしい力を秘めた剣ではあるな」
あ、『先導者』さん居たんだ。久しぶり。あと解説ありがとう。
『先導者』さんも賭けに参加してるんだ。赤い札を持ってる。私に賭けてくれたのか。ちょっと嬉しい。
正面でヴィアラッテさんが、エクスカリバーを構える。私も月の短剣を抜き、構える。
ヴィアラッテさんが選んだ武器が長剣でよかった。槍とか鞭とかだったら、リーチに差がありすぎて何もできずに負ける可能性もあった。
意識を集中する。
この決闘は負けられない。25万Mの為に!
「はじめ!」
合図と同時に地面を蹴る。正面から迫る私のスピードを完璧に見切り、ヴィアラッテさんはエクスカリバーを横薙ぎに振る。
完璧なカウンター。けど、予想通り。ぎりぎりエクスカリバーが届かない位置で急停止し、エクスカリバーが通り過ぎてから一歩踏み込む。
右手を逆袈裟に振りぬく。流石の反応で、ヴィアラッテさんはエクスカリバーで月の短剣を的確に弾く。
つもりだったのだろう。残念。そっちは鞘だよ。
私の体で死角になっている筈の左手を下から上に振り上げる。逆手に持った月の短剣がヴィアラッテさんの首に迫る。その軌道に、エクスカリバーを割り込ませる。
これにも反応するのか。
月の短剣をエクスカリバーの腹で受ける。すると、バターを切るかのように、スルッ、とエクスカリバーが両断された。
「「え?」」
私とヴィアラッテさんの声が重なる。ストッ、と切れたエクスカリバーの切っ先が地面に刺さる。
数秒の沈黙。そして。
「エクスキャリバアァァァァァァ!!!!!」
絶叫が大気を震わせた。ヴィアラッテさんが、力なくその場に膝をつく。
「あ、あの、えっと、その、剣を壊すつもりは」
あまりの出来事に私も動揺してしまっている。
だって、世界最高の剣だよ? そんなバターみたいに切れると思わないじゃん? これ、私が悪いの? 弁償? 世界最高の剣を?
頭の中に〇が並ぶ。フッ、と意識が遠のく。が、なんとか踏みとどまる。
落ち着け、私。まだ慌てる時間じゃない。これは不可抗力だから。決闘だもん。武器が壊れる事もあるよ。そんなの自己責任だよ。うん。私は悪くない。
とはいえ、これは流石に居た堪れない。凄い思い入れがあったみたいだし。
なんと声をかけるか迷っている内に、ヴィアラッテさんは二つになったエクスカリバーを抱きかかえる。
「うわあぁぁぁぁん!!!」
そして、走り去ってしまった。残された私は、呆然の立ち尽くす事しかできなかった。
「しょ、勝者ホシミヤルキアさん」
ゼニスさんが気まずそうに、私の右手を掴んで掲げる。
一瞬の間の後、罵声と歓声が響き渡る。ヴィアラッテさんに賭けた証である、白い札が空を舞った。
決闘には勝った。けど、後味悪いなあ。今度菓子折り持って謝りに行くか。
大きく息を吐くと、ひんやりとした物が私の頬を挟んだ。ステラの手だった。
「ルーちゃんが気に病む必要はありませんよ。全てあちらの自業自得です。それに、あれだけ綺麗に折れたのであれば、直すのは簡単です」
「そうなの?」
折れた剣は直せない筈だけど。異世界の技術すげー。
「はい。ですから、ルーちゃんは、ただ誇れば良いのです。Sランクの冒険者を叩きのめした、と」
随分嬉しそうだね。あ、そっか。10万Mが25万Mになったんだもんね。
「ボス! 凄いの! 5000Mが1万2500Mになったの!」
「ギャンブルって凄いっす!」
こらこら、その思考は不味いよ。その年で楽にお金を稼ぐ事を覚えちゃダメだ。
「凄くないから。いい、ギャンブルっていうのはね、絶対負けるようにできてるの。だから、ギャンブルなんかに手を出しちゃダメだよ」
「でも、ボスに賭ければ負けないの」
くっ、そんな期待に満ちた目で見ないで。
「わかったよ。私が決闘する時に私に賭ける場合のみ、ギャンブルを許可します」
「わかったの!」
「次は全額ボスに賭けるっす!」
完全に破滅する人の思考だよ。まあ、もう決闘なんてしないし、大丈夫でしょ。
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