第14話 逸材
私がこの世界に来て一週間が経った。『先導者』さんに言われた通り簡単な依頼をいくつかこなした。
この世界での生活も少しずつ慣れてきて、そろそろ依頼の難易度を上げようかという感じだ。
今日も今日とて、ステラと仲良くおててを繋いで冒険者ギルドに向かう。
ステラは手を繋ぐのがお気に入りみたいだ。この子はちょっと私の事が好き過ぎる。
かわいいけど、ちょっと心配になる。もし、私が居なくなったら、この子はどうなるんだろう、と。
そんな事を考えているうちに、冒険者ギルドに着いた。
建物に入ると、何やら受付の方が騒がしい。
見ると、二人の女の子が騒ぎの原因のようだ。対応しているのはゼニスさんだった。
「いいからさっさと許可証を出すの!」
「時間がないんすよ!」
「申し訳ありませんが、それはできません」
白髪の女の子達は、カウンター越しにすごい剣幕でゼニスさんに迫っている。
「どうかしたんですか?」
声を掛けると、ゼニスさんと二人の女の子は同時に私の方を向く。
とんでもない美少女だった。
絹のような艶のある白髪をハーフアップとツーサイドアップにし、宝石のように輝く青いたれ目とつり目。
身長はどちらも一四〇センチ程。
裾のほつれた白いシャツに革の胸当て。黒いショートパンツに黒いブーツと、お揃いの初心者装備。
間違いない、双子だ。ロリ双子美少女だ。こいつは逸材だぞ。
「お前、だれなの?」
「見た事ない顔っす」
双子ちゃんに睨まれた。ふむ、悪くない。
「すみません、ルキアさん。何かご用ですか?」
「いえ、特に用があるわけではないんですが」
「待つの! ルー達の話はまだ終わってないの!」
「そうっす! 早く許可証を出すっす!」
随分必死な様子の双子ちゃん達に、ゼニスさんは困ったように笑う。
「ですから、何度も言っているように、お二人のランクではラピス山脈への立ち入りを許可する事はできません。Cランクの、それも二人のパーティーでは、死にに行くも同然です」
「ふん、白々しいの。どうせお前らは、冒険者の生死なんて気にしてないの。お前らが大事にしているのは、ギルドの体裁だけなの」
こらこら。いくらちびっ子でも、それはダメだよ。
「ちょっと君達。このお姉さんは仕事だから冷たく言ってるだけで、本当は君達の事を心配してるんだよ」
「なんすか? 部外者は黙っててほしいっす」
「そうなの。おっぱいは黙ってるの」
誰がおっぱいだこら。可愛いからって調子に乗って。
「あんな契約書を書かせる奴らが、心配なんてしてるわけないの。こいつらにとって冒険者は、ボーナスの為の駒なの」
「それは……」
ゼニスさんは、ばつが悪そうに俯く。
ちびっ子のくせに鋭いじゃないか。
「えーっと、君達名前は? ラピス山脈って所に行きたいの?」
「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るの」
このちびっ子は。
私が名乗る前に、ステラが私の前に出た。
「わたくしはステラです。こちらはルキアさん。ルキアさんはCランク、わたくしはBランクです」
「Bランク!」
ちびっ子達は、Bランクと聞くと目の色を変えた。
「コイツらが居たらラピス山脈に行けるの」
「でも、おっぱいちっちゃい方はやばそうっす」
こそこそ話してるけど、全部聞こえてるぞ。ステラさん、ステイ。暴力はまずいですよ。
「おっぱいおっきい方はチョロそうなの。アレでいくの」
「アレっすね。了解っす」
全部聞こえてるからな。誰がチョロそうだこら。
「スーはスーなの」
「ウチはルクっす」
「スー達、ラピス山脈に行きたいの」
「でも、それにはBランク冒険者が居ないと許可がおりないっす」
ハーフアップたれ目のスーと、ツーサイドアップつり目のルクは胸の前で両手を組んで上目遣いで私を見つめる。
残念ながら私はチョロくない。そんな事で絆されたりしない。
「ウチらとパーティーを組んでほしいっす、お姉ちゃん」
「お願いなの、お姉ちゃん」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
かわいい! 天使! 持って帰りたい!
「チョロいの」
「チョロいっす」
「チョロ過ぎです」
ステラまでもが、半目で私を睨む。
待って、違うんだよ。これには理由があるんだよ。私は勇者だから。こんな小さな子が困ってたら助けないと。決してお姉ちゃんって呼ばれたのが嬉しかったとか、そんな理由じゃないから。だからそんな、マジかこいつ、みたいな目で見るのはやめて下さい。お願いします。
「ルーちゃんが決めた事なら、わたくしは従いますよ」
ステラは大きな溜息を吐いて、ゼニスさんに向き直る。
「ラピス山脈に向かうので、許可証の発行をお願いします」
「はい、かしこまりました」
ぱたぱたとゼニスさんは奥へ消えていく。それを見送ったステラは、冷然とスー達を見下ろす。
「それで、貴女達の目的は何ですか?」
「お前等には関係ないの」
「ラピス山脈に入りさえすれば、アンタ達は帰っていいっす」
やばい、本気でステラがキレそう。
「そうはいかないでしょ。ラピス山脈って危険な所なんでしょ。そんな所に貴女達みたいな小さな子を置いて帰るなんて、できるわけない」
「これは依頼じゃないの。手伝ってもお前等にメリットはないの」
「手伝う事にメリットがなくても、手伝わない事にデメリットがあるの。もし、私達が貴女達を置いて帰って、貴女達が死んだら寝覚めが悪い」
スーは小さく舌打ちする。
「偽善者っすね、おっぱいさん」
「誰がおっぱいさんだ。ルキアお姉ちゃんと呼びなさい」
ゾクッ、と背中が粟立つ。錆びついたネジのように首を回すと、無表情でステラが私を睨んでいた。
これくらいはいいじゃん! 許してよ!
「こっちはこっちでヤバイっす」
「頼む相手を間違えたの」
やめて! 引かないで! 泣いちゃうから!
「お待たせしました、許可証です。え? なんですかこの空気」
ほんと、誰だろうね、こんな空気にしたの。
「ありがとうございます。では、行きましょう。貴女達の目的は移動しながら聞きます」
一見、普段と変わらない優し気な微笑みを浮かべるステラだけど、あれは絶対に怒ってる。
だって、握った拳が震えてるもん。
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