第12話 エーメとムスタファ皇子

イスラムの帝国 オスマン帝国のトプカプ宮殿 

軽快な軽やかな足音をさせて

まだうら若い金髪の少女が豪奢な宮殿の中を歩いてゆく

通り過ぎる者達は清らかな美しさの彼女を見ている 

たまに挨拶などを交わしてまた、エーメは通り過ぎてゆく


東西を隔てるボスポラス海峡に

いにしえから続く千年以上の歴史ある元、東ローマ帝国

当時のビザンチン帝国の面影を引き継ぐ都


街にはモスクの丸みを帯びた尖塔 イスタンブール(コンスタンチンノーブル)

アラブ風の街並みが見える風景はとてもエキゾチックな趣がある

日に幾重にもコーランの祈りの歌声が風に乗って木霊するのだった。

香辛料のスパイスの香りが街には漂っているとも聞く 

巨大な帝国ゆえに多民族国家らしく異国の言葉も‥


イスラム最大の都、トプカプ宮殿の奥深くにあるハーレムの区画

スパイスを効いた甘いチャイにトルココーヒー、ミントテイ

独特のアラブやペルシャ、トルコの菓子に食事の準備がされ、昼食にと運ばれてゆく


本来なら身分の低い女奴隷(ジャーリエ)である

もとは攫われたフランス人の少女エーメことナクシデイルも手伝いを

しなくてはいけないのだが、金の髪に青い瞳 天使のような美しい少女

類い稀なる美貌から将来を有望視され


先代の元皇帝妃に特別待遇を受けているので 

大勢の者達の大部屋でなく、小さな一人用の普通の部屋で

先の先帝皇妃、彼女の話し相手や特別な勉強、踊りなどのみをして

あとはただ、穏やかに暮らせていた。

少なくとも今は‥


「ナクシデイル」「はい?」廊下で後ろから声をかけられる


「あ、ムスタファ皇子殿下様」

エーメことナクシデイルは非礼がないようにムスタファ皇子に優雅に挨拶の礼を取る


ぽっちゃりとして、凡庸な面立ち

エーメ、ナクシデイルを見る頬が少しばかり、赤い


「こ、今度、菓子でも・・ああ、フランスの菓子でも部屋に届けさせよう」

うわずった声で満面の笑みで彼、ムスタファ皇子は言う


「まあ、有難うございます殿下」

エーメの無邪気で屈託ない綺麗な笑み、青い瞳が煌めき、彼女の頬が紅潮する

本当に嬉しそうだった。

ナクシデイル・・豪奢な声の名の通り それは綺麗な素敵な声のエーメ


「で、では 私はし、し、失礼するよ‥」

ムスタファ皇太子は早々に立ち去る。


傍にいたムスタファの御付きの者達がそっと舌打ちする

「殿下、あの娘は父君ハミト皇帝陛下の妃候補、しかも敵であるあの女の傍仕えです」

「む・・わかってるさ、だが何があるか分からない王宮の世界

うわべだけでも付き合うのも悪くないだろう」慌ててそう言い返す


「は、母上には余計な事を言ったら‥わかってるな!」そう言って口止めした。

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