MAD CITY −完全浄罪班−
ろいやるめりり
プロローグ
駅の警備室の空気は重く、外の騒がしさとは対照的に静まり返っていた。防犯カメラの映像が無音で再生されるなか、一人の男が椅子に座ってうつむいている。
その前に立つのは、制服姿の駅員と、被害を訴えた女性。そして、その横に、静かに立つ警察官だ。
「映像にも、はっきり映ってる。満員電車での接触は避けられない、という言い訳は通用しないぞ。あなた、故意に手を動かしているでしょう」
男は何も言わず、額の汗を手の甲で拭った。視線はまだ床に落ちたままだ。
「……やめてって言えたらよかった。でも怖くて、声も出なくて……それでも、私、ちゃんと覚えてます。背中の感触も、この男の顔も...」
「名前と住所は、ここに記録されています。状況証拠も十分。被害届が出されれば、正式に取り調べとなります。裁判所への手続きも...」
警察官が一歩前に出る。
「その必要はない」
その言葉に、男の肩がかすかに震えた。しばらくの沈黙の後、かすれた声が漏れる。
「…ま…間違いだったんです。ほんの……出来心で……」
だが警察官の容赦はない。
「どうやら、監視映像では、お前は右手で、この女のケツを弄んだらしい」
「なあ、反省してるから...」
「右手を出せ」
警察官は腕を引っ張った。
「早くしろ!」
次の瞬間、空気が破裂するような弾丸の鋭い一撃音と共に、男の右手が腕ごと弾け飛んだ。閃光とともに肩関節が破裂し、三角筋の繊維が音を立てて引き裂かれた。上腕骨が根元から折れ、橈骨と尺骨の断端が空中に螺旋を描いて飛ぶ。
皮膚は裂け、赤黒い筋繊維と黄色味を帯びた脂肪が露出し、まるで人体解剖図が生きたまま開かれたかのような光景がそこにあった。
「あああああああああ!!!!!」
血液は拍動に合わせて断端から噴き出し、切断された大腕動脈からは、リズミカルな赤い柱が地面に脈打った。彼の喉から漏れたのは叫びともつかぬ嗚咽が響き、咽頭は収縮し、声帯が引き攣り、音というよりは粘液混じりの震えが口腔から這い出る。
本体との接続を失ったその手がまだ何かを掴もうとして痙攣しながら、数メートル先の床でぴょんと跳ねる。断端の末梢神経が過敏に発火し続け、痛みという言葉では捉えきれぬ地獄が、彼の神経系全体に電撃のように走り続けていた。
「見ろよ、これがクズの中身だ」
が、それはもう人間とは呼べぬ何かだった。
吹き飛ばされた右手は、まだ痙攣していた。指の腱が断裂しながらも、反射的な収縮を繰り返し、地面に不規則な痕跡を描いていた。
「……なんだ、まだ女のケツが触りたいのか」
警官は無表情に片足を上げ、血塗れの手掌に重くブーツを落とした。
パキパキと骨が砕ける音が鳴る。中手骨が粉砕骨折を起こし、皮膚の裂け目から砕けた骨片が飛び出す。掌の掌側腱膜が破裂し、手掌全体がぐしゃりと沈むように潰れた。
「神経がまだ反応してやがる……どれ、もう一度だ」
今度は橈骨動脈からの噴出が増え、地面に赤黒い水たまりが広がった。指先の末節骨は原型をとどめず、爪ごと捻じ曲げられている。
「見ろよ。こんなもんが俺に刃向かおうとしたってんだ。滑稽だな」
彼はにやりと笑い、血に濡れた足をゆっくりと引いた。そこには、人の手だった痕跡をわずかに残す、肉塊があった。
「お嬢さん、これで十分かな、もっと罰を与えることもできますが」
「い、いえ、もう、大丈夫です」
女は逃げるように、部屋を後にした。
「駅員さん、後で清掃係に掃除させときますんで、どうぞ仕事に戻ってください」
そして痴漢魔に向かってこう放った。
「それからそこのクソ野郎、これやるよ」
絆創膏の箱を投げ置いた。
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