猫になった俺の話(『勝ち組貴族に転生した俺は、薬師としてスローライフを目指したいのだが?』パロディ)

@satoika

第1話 はじめてのドラオ!

 ドラオ伯爵家を継ぐために領地から王都に出てきて数日たったある日、叔父貴にお使いを頼まれてメリッサ家に足を運んだ。


 このメリッサ家は知る人ぞ知る超高位貴族を相手にした……殆ど顧客は王族という超高級猫カフェを営んでいる。

 まぁ、猫カフェはメリッサ家当主の趣味で、本業は獣医(人間も含む)だ。


 我が家は犬をかなりの数飼っているので、昔からよく世話になっていた。


「いらっしゃい……狂犬病の予防接種の件だね。ちょっと書類をとってくるから適当に座っていてね」


 案内された先は、猫カフェだった。


 人当たりが良い笑顔を浮かべた当主の意図を何となく察する。


 我が家は代々犬派だが、歴代の当主達は皆隠れ猫派であった。いや、この猫カフェの猫限定の猫好きだった。


 高級な餌や、オモチャ、洋服など、先祖代々この店の猫に貢ぎまくってきた歴史がある。


 メリッサ家から見れば、俺もいいカモに見えているのだろう。


 しかし、残念ながら俺は猫が好きではない。


 足元にそろそろと寄ってくる毛玉をギラリと睨むと、ぴぎゃっと猫は飛び退いて物陰に隠れた。


 その瞬間、威圧を感じる。


 気配を追ってみれば、キャットタワーのてっぺんで優雅に長い尻尾を揺らして俺を値踏みするような金目と目があった。


 黄金色の長い毛と優雅な佇まい……。

 ふわふわの豪華な襟巻きのような毛は艶やかに輝き、まさに王者の風格である。


 ノルウェージャンフォレストキャットである。


 現在進行形で俺の祖父、オズル家の先代が入れあげている推し猫である。


 たしかにまぁ……綺麗っちゃぁ綺麗だな……。

 犬にはない優雅さと気品、豪華さまで兼ね備えた芸術品だ。


 だが、猫は、主人の忠義のために地面を這いずりまわり、泥だらけになるような献身をしらねぇ不忠者だ。


 いつでも自分本位で勝手気ままだ。


 好かねぇんだよ。


 俺には群れのリーダーとしての、犬共の献身を受けるボスとしての矜持がある。

 ちょっと豪華な毛並みや、美しい姿形をしているが、猫は気まぐれで我儘。


 俺の性格とは相容れない。


 金の猫がすっと視線をそらした。

 キャットタワーの中間にいた白に金の混ざった猫がシュタっと飛び降りると俺のそばによってくる。


 媚びるような甘えたような視線で俺をみやる水色の瞳、黄金混じりの白いふわふわの尾をこれみよがしに揺らしながら、ゆっくりと距離を測りながら俺の周りをすすっと移動する。


 誘ってやがるな……。


 たしかに、その毛の長さは魅力的に映る。

 自国だけでなく大陸全土の王を虜にしている猫カフェの猫だけある。


 だがな……ちょっとみない綺麗な猫ってだけだ。

 俺にとって所詮は……。


「!?」


 その時、俺の目に飛び込んできた毛玉の塊に俺は釘付けになった。


 部屋の隅に作られた出入り口から灰色の埃のような尻尾がぬっと出てきたのだ。


 この豪華な部屋に不似合いな色合いに、一瞬本物の埃かと思った。

 それはなぜか尻尾をずりずりさせながら後退するように尻から部屋に入ってきた。


 ど、どうした?!


 ずりずりと動くそれは、ようやく全身を扉の奥から抜いた。


「?!」


 灰色の猫だった。

 ずんぐりむっくりな猫だった。




 いや、まて何だこの猫……。


 みている俺に気づいたのか猫は、はっとして驚いた顔になる。銀目が見開かれて丸くなった。


 おう……驚いている!!


 固まること数秒、ちらっとキャットタワーの上の猫に視線をむけ、それから、俺のそばによっている猫に視線をむけ……。


 すすっと出てきたばかりの通路口に顔を突っ込む。


「まてまて「あぁ、ロウちゃん、出てきたの?」」

 俺の制止と同時に、ひょいと店主が猫を片手で抱き上げる。


「な、なおぉん」

 猫が困惑ぎみに返事をする。

 店主はそれを抱えたまま俺の方にやってきた。


「お待たせ、これが今回の書類と計画書だよ」

「……あぁ……」


 近くでみるとその猫は、めちゃくちゃ可愛かった。

 灰色の毛並みは、埃なんかではなくちゃんとキラキラしていて、よく手入れされているし、三角の耳はちんまりしているがよく似合っていて可愛い。


 もう、何というか、全体が、存在そのものが特別に特別に特別に可愛く完璧なのだ。


 う、うむ、猫も悪くねぇ……。

 愛らしい顔しやがって……さては俺を誘ってるな?!


 その毛に顔をおしつけてスーハーしてぇ!!


「この子はロウちゃん。ブリティッシュショートヘア風の特別な子だよ。可愛いでしょ?」

「……そ、そうだな……」


 風って何だよ。と思ったが、ナデナデされてご満悦な顔のロウに細かいことはどうでもよくなった。可愛い……。


「あっちの猫達の兄弟なんだよ?」

「そう……いやいやいや、ちっとまて猫種が違うだろう。それはねぇだろう!?」


 キャットタワーの猫は、どうみてもノルウェージャンフォレストキャットだ。そもそも毛の長さも色もひとつも似てる要素がない。


「それが摩訶不思議で本当なんだよね。ね?ロウちゃん?先祖返りなのかな?」

「にゃおん」

「……そうか」


 当人?猫が同意するように鳴くので、俺は納得した。

 ロウがそういうなら、そうなのだ。

 そもそも兄弟とかどうでもいい。

 ロウの可愛さは不動である。

 ブッチギリナンバーワン!!だ!!


「そうだ。ロウちゃん。ドラオ君にオヤツをおねだりしてみたらどうかな?」

「なお?……」


 店主のそそのかしに、ロウは首を傾げた。


 可愛い……。


 それからちらっと俺をみる。

 上目遣いも可愛い。


「にゃ……ぉぅ?」

「っぅ」


 よく媚び方がわかってないロウは、恐る恐る前足を出してお手をしながらのオヤツの催促をする。


 まさかのお手!?


 俺は撃沈した。


 猫のお手は最強である。


「オヤツをやるにはどうしたらいい?」

「まずは会員になってもらわないとね……入会金と年会費の他にオヤツをあげるには指名料が必要かな……因みにロウちゃんの好物は新鮮なマグロを炙ったものだからちょっとお高いオヤツなんだよね。串も銀のお気に入りの串で味付けもこだわりがあるから他の猫とは違って手間がかかるらね」

「わかった。用意してくれ」

「じゃあ、書類とおやつを用意してくるから、ロウちゃんここで待っててくれる?」

「なお!」


 マジで可愛いな。

 俺は今日までこんな可愛い生き物を知らずに生きてきたのか。人生を損してきた。


 ちょこんとテーブル上で座ってソワソワしながら待つロウは、メッチャ可愛かった。

 犬どもの待てとは格が違う!!

 ロウは、世界一可愛い!!


「ロウ……ちっと触っていいか?」

「!!にぃっ!!」


 ブワッと毛が逆立ちロウがテーブルの端に遠ざかる。


「あ、や、ダメならいい、触らない……触らねぇから、ほらあんま端いくな、落ちたらあぶねぇ」


 犬と違って猫は無理くり撫で回しは厳禁だ。

祖父に酒のつまに散々猫の扱いは聞かされてきた。

 猫は長期戦覚悟で付き合わねばならない。

 愛情を絶えず注いで満たしてやれば、ある日そっと寄り添ってくれるようになる。


 こんなに警戒してるロウが擦り寄ってくんのか……。


 やべぇ……想像しただけで震えてくる。


 もしかしたら、そのうち犬みたいに腹だして撫でていーよ?みたいな顔したり??


 最高じゃねぇか!!猫可愛いすぎる!!最強じゃねぇか!!

 猫モフさせろ!!


「みゅぎゃッッ」


 ロウが何故か潰れた声で鳴き、テーブルから飛び降り、通路に戻ろうと首を突っ込んだ。が、入ってきた店主がさらっとロウを抱き掬う。


「ロウちゃん、待てはどうしたの?待てはちゃんとできるようになりなさい。さぁ、ドラオ君に食べさせてもらおうね」

「にぃゅ」

 メッチャ不満げに鳴かれた。

 俺のせいで怒られたと目が恨みの色を宿す。


「触ってねぇだろ……」

「にゅい」


 その目はやめてくれ、たしかに隙あらば、触ろうとはした。


 猫は俺が思うより察しが良いらしい……。


 俺の煩悩を察されたためか、ロウは手ずから与えるオヤツを拒否してきた。


 それでもテーブルの端でもぐもぐするロウは可愛かったので許す。


 店主に勧められ、距離を縮める仲直りのためにロウが大好きな葉っぱを買わされた。


 猫じゃらしのように葉っぱをゆらすとロウが飛びついてきて、鼻血を出すくらい可愛かった。

 意外とロウはいい動きで俺から葉っぱを奪う。そして、ロウは葉っぱを離さず、通路向こうの部屋に運んでしまう。


 何でもあの先はロウの寝床で、お気に入りを溜め込んでいるらしい。


 俺の与えた草がお気に入りか……うむ、悪くない。


 可愛い小さい手を俺の膝にのせてお手もどきをしながら『ちょーだい?』って顔で俺を見上げてくれば何だって買い与えちまう!!


 結構、バカ高い葉っぱだが、ロウが可愛すぎてその日12枚も貢いだ。


 家に戻る頃には、まぁ、ざっと貴族の家1軒分くらいの出費にはなったが、俺は大満足だった。


 翌日、叔父貴にロウを紹介するため、ロウを買い取るために二人で店に行った。叔父貴はロウが気に入ったようだった。


 ただ、なぜかオヤツも葉っぱもあげていない叔父貴にロウが擦り寄っていた。

 膝にのって甘えた鳴き声を出したり頭をぐりぐり押し付けたり……。


 叔父貴の香水にはまたたびが入っていたのかも知れない。


 後でその香水を分けてもらおう。


 叔父貴は先代の付き合いで猫マッサージたるものを習得していて撫で方が玄人だった。ロウは終始ご機嫌で緩んだ顔で身を任せ、腹毛まで触らせていた。


 俺も叔父貴にあの技を伝授してもらおうと決意した。


 ただ残念ながら、ロウは店の売上No. 1なので買取交渉はまとまらなかった。


 ロウはふみふみが得意で、お気に入りの薬草をふみふみしたものは何故かチートな薬効があるらしく軍用品として買い取られているらしい。

 叔父貴もそんな方法で奇跡の薬草が作られているとは知らなかったらしく驚愕していた。


 ロウに貢いでいたライバルは、まさかの身内、国軍だった……。


 兎にも角にも俺達も猫を飼ったことがないのもあり、まずはお迎え前のお泊まりプランからはじめることになった。


 キャットタワーやキャットウォーク、猫砂、新鮮な猫缶、盛り付け用のトングや飾り、食器、寝所に……猫を飼うにはかなり色々入り用になるらしい……結局、また貴族の家三軒分くらい散財した。


 参考に見せてもらったロウの部屋には、謎の木が生えていた。


 爪研ぎ用の木で、匂いが気に入っている天然モノでしか爪研ぎしないのでロウにとっては必須らしい。


 やはり特別なロウには特別品がよく似合う。


 叔父貴と相談して俺達は週末、大森林に爪研ぎ用の木を採取しにいくことにした。


 まってろよ!ロウに相応しい爪研ぎ木をとってきてやるぞ!!


 こうして慣れないながらも、着々とお迎え準備は進んでいく。

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