第80話 変わった君
ナハトラさんもモリーナについての詳しい事情は聞かされていないようだ。ただ、まったく心当たりがないわけでもないらしい。それは「アンシーアブル・シング」があるから。
「私の能力は、固有魔法を使って甘い汁を吸っている世の権力者たちにとって忌むべき力といえるだろう。それも公爵家に生まれているのだ。いずれ執政に関わることも大いにありえるわけだ」
だから、ナハトラさんの命を狙う刺客なんかが送り込まれ、それも内々で処理されてきたそうだ。
そんな彼女が自ら進んでアヴァロン魔導学院に――、国一番の魔法名門学校であるとともに「固有魔法の言語化」を掲げる学校へ入学するわけだ。
ナハトラさんを恐れる人たちはなお一層、恐怖したことだろう。
「――私が思うに、アヴァロンの掲げる目標は固有魔法の『共有』ではなく、『独占』。利用しやすい魔法とその術者をいち早く知る、そのまた逆も然りだ。そこに私が入るのはなにかと都合が悪いのだろう」
ナハトラさんが特別なのか――、ブルーメ公爵家がそうなのか、彼女は本気でこの国をよくするために己の正義を行使するつもりでいるのだ。
ようは固有魔法によって不当に富を、名誉を、権威を得ていた者たちを本気で一掃するつもりなんだ。
「私はバレなければよし、と不正を続ける者を幾人も見てきた。ゆえ、リンツを見て驚いた。その力を――、誰にも勝るその圧倒的な魔法をあえて使わない君にな」
ナハトラさんは誤解している。あたしが「アザー・キャンディー」を使わないのは、取り返しのつかない過ちを犯しているからだ。
それがなかったらきっと今でもズルを続けて、それこそ今のナハトラさんが敵視する側の人間の1人になっていたはずなんだ。
「ナハトラさん! 聞いてください、あたしは前に――」
「無論、リンツが固有魔法を使わないのはそれに関わる相応の理由があるのだろう? ただな、私はその結果、変化したであろう今の君に魅力を感じているのだ」
言いたいことはわかる。伝えたいことはわかる。まったくこの人は普通なら赤面してまともに言えないようなことを平気で言ってのける。
たしかにマリーの死をきっかけにあたしは変わった。ズルをしなくなって、「やり直したい」と思わないように今できる全力を尽くすようになった。
見て見ぬふりも絶対にしないと決めた。あとから「自分がこうしていたら――」って思いたくないから。
けど、今の自分を仮に肯定しても、あたしの過去は変わらない。あたしの犯した罪はどうやっても消えないんだ。
「リンツ、私は君が過去に――、その『魔法』を封印するに到った如何なことがあったかは知らない。だがな、過去は変えられるものだ」
あたしは、ナハトラさんの言っていることがわからなかった。だから、その疑問が自然と言葉として口から零れ出ていた。
「――? 過去は……、変えられる?」
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