第53話 突撃談判
あたしの勢い任せの問い掛けに、シルヴァくんのお父さん――、お医者様はしばらく無言だった。
そして、静寂が一時を過ぎると、小さくため息をついてから言葉を発した。
「――シルヴァが余計な忠告をしてしまったようだね。もっとも……、元は私があの子に半端な忠告をしたことが原因か。つくづく、シルヴァは私の子だね、うんうん」
あたしに――、というより、お医者様は独り言ちてひとり納得しているようだった。それで、その忠告に至った中身は話してくれるの? くれないの?
「リンツさん、私の余計な助言がブルーメ公爵令嬢のご友人である貴女を不安にさせてしまったのですね。お騒がせして申し訳ない」
「別に謝られることなんてありません! それより、意味なく『誰かに気を付けろ』なんて言わないと思うんです! だから、その
「貴族の集まり、というのはいろいろと面倒事が多いのですよ? シルヴァにはそうしたことに巻き込まれないよう助言しただけです」
嘘――、お父さんの言っていることは絶対嘘だ。貴族とかかわると面倒ならそう言えばいい。その頂点がブルーメ公爵家ならナハトラさんに近付くな、と伝えれば済むはず。
それをあえて「ブルーメ公爵家令嬢の周囲」と言うんだから、公爵家令嬢とか貴族とか抽象的なものじゃなくて、もっとはっきりとした「気を付けるべき」対象がある――、あるいは、いるはずなんだ。
「――お願いします、教えてください。急に訪ねてきた学生がなにを言うんだ、と思うかもしれませんけど……、公爵家令嬢、ナハトラさんの命にかかわることなんです」
あたしは椅子を降りて、床に膝を付き、これでもかと目一杯頭を下げた。けど、それはすぐにお医者様に起こされた。
「やめなさい。私がシルヴァに忠告したのは噂話の延長に過ぎない。今となっては余計なことを言ってしまったと後悔しているくらいです。貴女がそこまでするほどのものではない」
「どんな些細なものでもいいんです! なにをバカなと思われるかもしれませんが、本当にナハトラさんの命にかかわる話なんです。そして――」
あたしは次の言葉を一度、吞み込んだ。
どう話すべきか、ホントに些細な話なのかもしれない。けど、ここでナハトラさんに迫る危険が少しでもわかるなら、あたしは知りたい。
「そして……、あたしが知ったらナハトラさんを救えるかもしれないんです。彼女の身に迫る危機から、あたしなら救えるんです」
妄言にしか聞こえないだろうか? けど、あたしはいたって真剣だ。ここまで来たらどれだけ恥をかこうが、狂人と思われようが食い下がってやる。
「ふー……、疲れた疲れた。シルヴァのお客様も帰られたことだ。明日の準備でもして今日はもう休むとしようか」
「――えっ?」
シルヴァくんのお父さんは、急に声色を変えて視線をあたしから逸らした。そして、こちらに背を向けてしまった。
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