第3話 全教科満点
周囲の温度が数度上がった気がする――、いや……、事実上がった。教室の席に座っていたあたしは、声をかけらる前に「彼」が近づいてきたことを、気配ならぬ「気温」で感じ取ってしまった。
「やぁやぁ、リンツ。ごきげんよう」
「やあ、デイヴ。今日は――、じゃなくって今日も相変わらずデカい、というか太いね」
彼が歩くたびに校舎の床が軋んではいまいかと錯覚する。そう――、あたしに話しかけてきた男子生徒「デヴィッド・ターベルスキー」、愛称は「デイヴ」。彼は巨体……、というかデブだ。
ムキムキマッチョとかではない。贅肉の塊だ。機能性を1mmも感じさせない正真正銘のデブ。デブだけど、デイヴはいいやつだ――、性格と体型に因果関係はないから当たり前か……、つまり――、いいデブだ。
場所は違えど、あたし同様に辺境からこの学校へやってきた学生で、1年生の時、なにかと行動を共にすることが多かった。今となってはそれほど多くないあたしの友人のひとり。
「そうともリンツ。遠い異国では『大は小を兼ねる』という言葉があるそうじゃないか? そして我はこの学校の誰よりもデカい。つまり、極めて有能であるということをこの肉体が証明しているわけだな」
「その『がんばってデカくなってる』みたいな言い方やめなよ? 単に太ってるだけでしょ?」
「人は減量する際、努力するという。そのまた逆も然り。我がこの肉体の維持するために――、否! より巨体になるためなんの努力もしていないと思っているのか?」
「うんうん、知ってる。毎日いっぱい食べてるもんね。あたしは食べてもあんまり太らないから気になんないけど。女子の中には君の存在自体が『悪』に見える子もいるかもしれないからね。女子と話す時は発言の内容に気を付けなよ?」
こんな感じで彼とはいつもくだらない話をよく交わしている。彼は自分の体型に誇りをもっているようで、こうして肥満体型の価値をあたしに説いてくれるのだ。
あたしはそれにミジンコほどの価値も感じていない。ただ、彼との会話は不思議と退屈しないのだ。
「ふむ……。とある学説によれば、肉体の重量と魔力の総量には相関関係があるとか――」
「なにそれ? 初耳――、というかそれ言ってる人、絶対デブでしょ? っていうかデイヴでしょ、それ?」
「この学説の提唱者にはぜひ会ってみたいものだな……。それはそうとリンツ、試験の結果はどうだった?」
謎のタイミングで話題の軌道を変えられた。実際のとこ、本題はこっちなのだろうな……。
「デイヴより下なのは間違いないかな? 今回も喜んでいいか悔しがったらいいのかわかんない微妙なとこだったよ」
この肥満男は、こう見えて――、というか体型と頭脳の因果関係もまったくないからどう見えても関係ないのだけれど頭がいいのだ。
学科試験の結果はいつも上位の貼り出し20名にぎりぎりランクインするか否かのところを維持している。
「そうか……。しかし、入学試験では全教科満点という奇跡の離れ業をやってのけたリンツだろう? まさか入学を決めた段階で燃え尽きてしまったわけでもあるまいに……」
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