リンツ・シュバリエは振り返らない
武尾さぬき
第1章 リンツ・シュバリエと魔法学校
第1話 凡人と才女
マリー、マリーが死んだ……?
マリーはあたしの幼馴染で一番の親友だ。
そのマリーが死んだ?
いや、違う。ホントはマリーは死んでなんていなかった……。あたしが――、あたしがマリーを死なせてしまったんだ……。
この力はもう、使ってはいけない。
そして――、君にはもう頼らない。
◆◆◆
成績は上から78番目――、先日あった試験の結果だ。これは約200人いる学年の中でのあたしの成績であり、ここでの位置付け。
中間よりやや上、褒められるほどよくはないけれど、咎められるほど悪くもない。ある意味「もっとも目立たない」ところかと思った。
見上げる視線の先には、成績上位20名の名前が貼りだされている。この学校の習わしだ。その天辺にあるのはいつも決まった名前。学校中の注目を集めるその人の立ち位置をそのまま示すようだった。
「またナハトラが一位だって?」
「やっぱりナハトラ様がトップなのね!」
「誰もナハトラに勝てるやついねーじゃん!」
「あぁ、ナハトラ様はやはりこうでなくては……」
みんなが口にするその人は、「ナハトラ・ブルーメ」。あたしたちの学年で入学時からずっと成績トップに君臨するお人だ。
あたしたちは今、とある魔法学校の2年生になったところ。その最初の学科試験の結果が発表されたのだ。
ナハトラさまは、入学した頃からずっと学年の頂点に立っている。
「ねぇねぇ、リンちーは成績どうだった感じー?」
順位表に群がる人の最後列にいたあたしは、背中から声をかけられた。この妙に甲高い声は振り返らなくってもその人を誰か教えてくれる。そしてあたしは彼女が苦手だ。
「リンツ・シュバリエ」、あたしの名前を「リンちー」とあだ名で呼んでくるけど、そう呼ばれるほどあたしは仲良しじゃないと思っている。
一方で、彼女はそんなあたしの気持ちに気付いていないのか、いや――、ひょっとしたらわざとなのか、遠慮なしに話しかけてくる。
あたしは自慢にも自虐にもならないこの中途半端な成績を彼女に告げた。あまり話したくはないのだけど、話さないとずっと付きまとってくるのを知っているからだ。
「あははー、リンちーらしい普通の成績だね? あ! ねぇねぇ見た見た? ナハトラ様! また成績トップだって! あたし憧れちゃうにゃー」
「うん、今見てたから知ってる。それじゃ、あたしはこれで――」
「ちょいちょい待ちっち! 相変わらず、リンちーはつれないにゃー?」
正面に回り込んで話かけてくる彼女に背を向け、あたしは立ち去ろうとした。けど、向こうはまだ話し足りないらしい。
そして、また――、いつも口にする疑問をあたしにぶつけてくるのだ。
「リンちーってさ? こう言っちゃなんだけど全然目立たないし、前の学校もナハトラ様とは別だったのよねー?」
「うん……、前に言ったでしょ? あたしの通ってた『魔法中等学校』は辺境にあって――、ここの生徒はあたしだけだから」
「だよねー? だったらなんでなのかにゃー? あのナハトラ様が、なんでリンちーばっかり気にかけるのか……」
出た。出たでた、またこの話題だ。「この女」は、ナハトラさまの取り巻き。いっつも彼女に纏わりついてご機嫌取りに必死の連中、その中でも筆頭格。
あたしはナハトラさまの周囲の連中が苦手だ。――というか、関わり合いたくない。ずっとそう思っていた。だから、こちらから近付いたことなんて一度もない。
けど、なんでこうして取り巻きなんかに話しかけられてしまうかというと……、そのナハトラさまの方からあたしに近付いてきたからだ。
この女が言った通り、ナハトラさまはなぜかあたしを気にかけてくれている。まるで年上のお姉さんのように優しく接してくれる。そんな彼女をあたしも慕っているのだけど――、ずっと疑問があるのだ。
あたしとナハトラさまにはそもそも接点がなくって――、この目立たないあたしがどうして学年一の才女と仲良くなっているのか、あたし自身がわからないのだ。
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