第4話 考察3・・人は体験した範囲でしか考えられない
ここで大切なのは、『人は体験した範囲でしか考えられない』ということなのです。
こういったことを書くと・・必ず、こういう反論があります。
「それはおかしいんじゃないの? だって、『登場人物が殺人を犯す』というストーリーの小説を書く場合は、作者は殺人のシーンを頭に思い浮かべるわけでしょう。『人は体験した範囲でしか考えられない』のならば、実際に殺人を体験した作者でないと、そういう殺人シーンは小説に書けないことになるじゃない」
その通りですね。でも、ここで重要なのは、『人は体験した範囲でしか考えられない』という場合の『体験』の定義なのです。
この場合の『体験』とは、『実体験』だけではなく、テレビや新聞などを介した『疑似体験』も含むのです。
今はテレビのドラマなどで、日常的に殺人シーンを眼にすることができます。新聞の記事もしかりですね。これらがすべて『疑似体験』となるのです。
そのため、先ほどの反論のケースでは、作者が実際に殺人を犯していなくても、作者はそういった『疑似体験』を元に殺人シーンを容易に頭に思い浮かべて、小説に書くことができるわけです。
それでは、『人は体験した範囲でしか考えられない』ということを念頭に置いて、この事例を考えてみましょう。
ここでも、あなたが友人から相談されたとして考えていきます。
さて、あなたが友人から受けた相談をもう一度下に書いてみます。
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友人の母親が、ものすごく周りを気にする人で・・周りのお母さんに勝ちたいという一心から・・友人のテストの点数を必要以上に気にしています。その結果、母親は「勉強しなさい」、「勉強しなさい」と声を荒げて、友人に勉強をしつこく強要してきます。友人は、そんな母親の圧力に耐えかねて・・とうとう、心の病に陥ってしまいます。
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これを読んだとき、あなたが精神科医や臨床心理士ならば、友人の母親が『自己愛性パーソナリティ障害』の疾患を持っているのではないか、あるいは、疾患というほどでなくても、そういう気質を強く持っているのではないかと疑うことができます。
でも、あなたが精神科医や臨床心理士でない場合は、一般には『自己愛性パーソナリティ障害』なんて思いつかないわけですから、そういった精神疾患で友人の話を理解することはできないわけです。
すると、『人は体験した範囲でしか考えられない』ので・・あなたは過去の自分の『体験』を元に、友人の話を理解しようとします。
そこで、あなたは『教育ママ』という言葉を思いつくことになります。『教育ママ』ならばよく聞く言葉ですので、あなたが実際に体験していなくても、あなたは過去にテレビや新聞などで見聞きし、それによって疑似体験をしているわけです。
こうして、あなたは友人の悩みを、自分の体験の中にある『教育ママ』で置き換えて解釈してしまうのです。つまり、友人の悩んでいる状況は「友人の母親は教育ママなので、それで勉強を強要しているのだ」と間違って解釈してしまうことになります。これは、友人からすると、「あなたに話しても理解してもらえなかった」ということに他なりません。
これが、『心の悩みを誰かに聞いてもらいたいのに、話しても誰も理解してくれない・・』という状況が発生する仕組みなのです。
逆に言うと、友人の悩みがあなたの『体験』の範囲にある場合だけは、あなたは適格にその悩みに答えることができることになります。
では、ここで中間のまとめをしてみましょう。今度は、あなたは相談する友人の立場で読んでみてください。
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〔中間まとめ〕
(命題)あなたが心の悩みを抱えている場合、『心の悩みを誰かに聞いてもらいたいのに、話しても誰も理解してくれない・・』という状況はどうして起こるのか?
1.人は体験した範囲でしか考えられない。ここで、『体験』とは、テレビや新聞などを介した疑似体験も含まれる。
2.そのため、あなたが誰かに心の悩みを相談したとしても、相手はあなたの話を相手自身の『体験』の範囲でしか考えられない。
3.あなたの話が『体験』にない場合、相手はあなたの話を、相手自身の体験の中にある事柄に置き換えて解釈しようとする。
4.このため、相手の理解が間違ったものになり、あなたは「相手に話しても理解してくれない」と感じることになってしまう。
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ここで、誠に厄介なのは・・3項の『相手はあなたの話を、相手自身の体験の中にある事柄に置き換えて解釈しようとする』という『置き換え』なのです。
話を『置き換え』なければ、相手は間違った解釈をすることはないのですが・・実はこの『置き換え』は、非常に強烈なもので、人はどうしても『置き換え』をしてしまうのです。
次に、この『置き換え』について考えてみたいと思います。
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