【初小説】いつでも酒が飲める場所

まなつ

第1話 帰る場所を探す夜

「店長ぉ~もう店、閉めないっすか?」


返事はない、無視すんな。


都内のちょっとした規模の繁華街。

雑居ビルの一角にある小さなbar。

本日も閑古鳥を鳴かせながら、絶賛営業中である。


「客、来ないっすよぉ。てか、台風なのに営業する意味あります?」


「……」


「会話拒否。なるほど、いつも通り」


グラスを拭きながら店長が少しだけ息を吐く。

相変わらずヤクザみたいな見た目だ。

本当にヤクザなのかもしれない。

なんで、こんな店やる金があるんだよ、このおっさん。


(まあ……本当は、給料出してくれて、時間が楽につぶせる仕事なら何でもいいんだけどさ)


「……常連はこういう日に来る」


店長は自販機みたいな大きな体格に似合わない、小さな声でぼそっと呟いた。


「強ぇな。そんな奴、俺もなりたいですよ。

 台風だろうが雷だろうが、飲みに行ける人生。逆に」


「酒カスってやつっすね!!」


「………来るのは、家に帰れない奴だよ」


――お前もだろ。

暗にそう言われた気がした。


「……なんか、痛ぇな、それ」


「カウンター、拭いたか?」


「拭きましたよ。つか、今の会話なんすか。

 俺が滑ったみたいじゃねぇっすか!!」


「知らん」


思わず吹き出してしまった。


(……マジで、“知らん”って言えば会話終わると思ってんな)


ガン、ガン、ガン。

ビルの古ぼけた階段を上がる、

大きな足音が聞こえる。

こりゃ、客は男ひとりだな。


「……お。来たかもしんないっすよ!

 家に帰れない常連さんってやつ」


俺が店長の方を振り向くと、

店長は椅子から浮かせていた腰を、そっと下ろした。


ドアが開く。

さぁて、バイト代くらいは軽く稼ぐっすか。


「ようこそ~!

 Bar Chez toi(シェ・トワ)へ」

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