変化と、犬友達と、プレゼントの約束

 幼馴染の譲羽ゆずりは紗雪さゆきは、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。

 しかし、それはそれとして犬好きにも目覚めたようで……。


「犬飼君、犬飼君。聞いてくださいよ!」

「はいはい、今日はなに?」

「えっと、あのですね! 私、最近わんこが可愛くて仕方なくて……以前よりも、視野が広くなった気がするんです!」

「と、言うと?」

「登下校の最中とか、犬のお散歩をしている人によく目が行くようになったんですよ。以前はあんまり気にしてなかったんですけど」


 気持ちは分かる気がするな。

 好きなものができると、以前は気にならなかったところに目が向くようになる。多分そういう感じだろう。


「それに、くるみちゃんとお散歩行ってるときに、同じようにお散歩してるご近所の人とお話ししたりとかできますし! 犬が好きってだけで、普段は接点のない人とも仲良くなれるって素敵だなって思うんです」

「え、もしかして犬友達、もうできてるのか?」

「はい!」


 輝く笑顔で紗雪はそう答えた。前から思ってはいたが、紗雪はかなりコミュ力あるほうだよなあ。

 俺なんてその犬友達の輪を広げるのに一年くらいかけたっていうのに、こいつはここ最近で一気に仲良くなったみたいだ。


「犬飼君ともお知り合いですよね? 皆さん、くるみちゃんのお散歩してると話しかけてくださるんですよ。最初は多分、くるみちゃんが私に散歩されてることで不安になって声かけたんだろうとは思うんですが」

「ああ……それは、まあ」


 男の飼い主がいる犬が、いきなり女の子に散歩されてたら確かに不自然か。それも知らない子。これはちょっと、俺の準備不足かもしれない。犬の誘拐事件とかもたまにあるし、見知らぬ人間が知っている犬を連れて歩いていたら、最初はそれを疑ってしまうだろう。


 くるみは首輪が水色なので、毛に埋もれてても遠目から誰の犬かは分かるだろう。交流がある人なら当然。


「今度紗雪に、なにか俺から許可得てるぞっていう証拠的なものをあげるからさ、くるみの散歩するときはそれつけておいてくれよ。ご近所さんとか犬友達にはそれ、言っておくからさ」


 もう大抵の人とは仲良くなっているだろうが、念のため「俺の許可を得て散歩している証」みたいなのでもつけておいてもらうほうがいい。


「ぷ、プレゼントですか!? はわっ……んんっ、分かりました。ちゃんと身につけてお散歩に行くようにしますね!」

「うん、近日中には見繕うからちょっと待ってて」

「待てというならいつまでも! 犬飼君なら、『よし』って言ってくれますから」

「ははっ、忠犬が二匹に増えたみたいだ」

「わん!」


 普段澄ました顔してる癖に「わん」は反則だろ……。

 さて、どんなものを贈ろうかな。特徴的なのがいいだろう。


 後日自分で散歩しに行ったとき、仲の良い犬友に「ついに犬飼君にもお嫁さんが来たの?」なんて言われることになろうとは――そのときはまだ考えもしなかった。

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