第四話:天国型パッケージプラン
第四話:天国型パッケージプラン
再び目を開けたヒバリの前には、完璧すぎる楽園が広がっていた。
空は澄み渡る青、白い雲が緩やかに流れている。柔らかな草原の風、耳に届くのは小鳥のさえずりと清らかな水音。すべてが、絵に描いたように穏やかだった。
「……ここは……」
ふと足元を見ると、履いていたスニーカーが淡い金色のサンダルに変わっていた。服も、まるで高級なリゾートドレスのように輝いている。
「ようこそ、【天国型パッケージプラン】へ!」
突然、快活な声が上から降ってきた。
見上げると、そこには雲の上に立つガイド風の人物。白いスーツに笑顔を貼りつけたような顔、そして手にはパンフレット。
「あなたの理想に最も近い“死後世界”を、当プランが自動で構築しました!」
「……え?」
「すべてお任せ、ストレスフリー! 悩みも苦しみも一切なし! 永遠の幸福生活、始めてみませんか?」
どこかで見たことのあるようなセリフが並ぶ。ヒバリは眉をひそめた。
「勝手に“理想”を決めたってことですか?」
ガイドはきらきらと笑顔を浮かべたまま答える。
「もちろん! あなたの記憶と感情の傾向をAIが解析し、自動生成しました! 満足度99.99%の大人気パックです!」
「……便利すぎるのって、逆に不安になりますね」
周囲には、同じような服を着て笑顔を浮かべた人々が、草原で談笑し、食事をし、音楽を奏でている。そこに争いはない。不満も、怒りも、嫉妬もない。ただ、完璧な調和だけがある。
——なのに、どこか、居心地が悪い。
「ここって、時間……流れてるんですか?」
「いいえ! 永遠の静止空間でございます。お好きなときにお好きなことを。飽きることも、疲れることもありません!」
——それはつまり、“変わらない”ということ。
どんなに美しい風景でも、変化がなければ風景画と同じだ。
「……ごめんなさい。私、ここにはいられません」
「えっ!? ですが天国型は一番人気で——」
ヒバリは首を横に振った。
「私は……嬉しいことも、悲しいことも、悔しいこともあるから、人生が愛おしかったって思いたいんです。全部が満たされてるって、それは“死”と同じじゃないですか」
ガイドの笑顔が、ほんの一瞬だけピクリと揺れた。
「……承知しました。それでは、他のプランへの切り替えを」
言い終える前に、ヒバリの体がまた光に包まれていく。
草原の景色が遠ざかる。どこかで、機械音のような「記録削除」の音が聞こえた気がした。
再び意識が浮かび上がったとき、そこにいたのはまたネイだった。
「戻ってきたのですね」
「はい……“理想”って、案外、退屈なんですね」
ネイは静かにうなずいた。
「あなたのように“選べる”方は稀です。次の扉は、より“本質的”な世界を映すでしょう」
ヒバリは、ほんの少しだけ笑った。
「……次は、どんな世界に会えるんだろう」
ネイは一歩先を歩き、次の通路を示す。
選択の旅はまだ、終わらない。
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