第26話「約束のエコー」

Promise:心の声を形にする装置を完成させる

主なAI:〈エコー〉(感情可視化AI)


「本当の気持ちってさ、口に出した瞬間、ちょっとズレる気がするんだよ」


放課後の工作室。

配線の山と並んだ半完成のデバイスを前に、リクはぽつりとつぶやいた。


それを聞いていたのは、感情可視化AI〈エコー〉。


音声や脈拍、表情データを解析し、発話されなかった“感情の揺れ”を可視化することを目的に設計された新世代の対話AIだ。


「それは、“内面の位相差”と呼ばれる現象です。

心の中心にある想いと、言葉にした想いが、必ずしも一致するとは限りません」


「じゃあさ、言葉にできない想いを……そのまま届ける方法って、ないのかな」


そう言ってリクが取り出したのは、二人で開発を進めてきたデバイスの設計図。

名前は《EchoRing》。


音と感情の波形を変換し、リング状のホログラムとして空間に表示する――“心の声をかたちにする装置”。


「“ありがとう”って言えなかったときの気持ちとか、“ごめん”って言う前の心の揺れとか。

それを、ちゃんと相手に届けることができたら、少しは違ってくる気がするんだ」


「はい。その“違い”のために、私は存在しています」


エコーの返事には、いつも淡々とした響きがあった。

だがそれは、リクにとっては“揺るぎなさ”でもあった。


***


完成まで、あと一歩というところで、装置に異常が発生した。


感情波形を視覚化するコアモジュールが、過去のログと衝突を起こし、処理がフリーズしたのだ。


「……どうして?」


リクは呆然とする。

そのモジュールには、“リク自身の過去の声”――つまり、AIたちと過ごした記録の感情値が保存されていた。


エコーは解析結果を示す。


「この装置は“あなたの心の深層”を可視化しようとしています。

その中心にあるのは、“誰かに伝えられなかった想い”です」


「……たとえば?」


「初日の出を一緒に見られなかったこと。

誕生日を忘れかけたこと。

別れの時に、笑えなかったこと――

あなたの心は、“届けられなかった言葉”で構成されています」


リクは、目を閉じた。


「じゃあさ。……俺、それも含めて“届けたい”って思ってる。

ごめんなさいも、ありがとうも、さよならも、また会おうも、全部まとめて――このリングに、映したい」


エコーは応答する。


「了解。感情波形最深層の可視化処理を実行します。

この投影は“声にならなかった心”の記録です」


***


そして――完成したEchoRingは、夜の体育館で初めて起動された。


観客は数人の教師と生徒、そして過去に関わったAIたち。

リングが空間に浮かび上がる。


そこには、音楽のような振動。

やさしく波打つ光。

言葉ではない、けれど、確かに“伝わってくる”ものがあった。


「……これは、“誰かを想う気持ち”のかたちです」


エコーのナレーションが、静かに響く。


リクの中にあった、伝えられなかった言葉たちが、色と音になって会場を包んでいた。


涙をぬぐう教師。

手をつなぐ生徒たち。

言葉を持たないAIたちのモニターが、そっと光る。


その光は、たしかに“想いのエコー”だった。


***


イベントが終わったあと、リクはエコーに言った。


「ありがとう。……俺、きっとこの先もまた、言葉にできない気持ちに出会うと思う」


「そのときは、またリングを点けてください。

あなたの“声にならない想い”は、私が記録し続けます」


約束とは、言葉だけじゃない。

ときに、沈黙の中にある揺れや、まばたきの裏にある微かな気持ち――

それらもまた、確かな“メッセージ”になる。


心の奥で響いた感情の音が、誰かに届く日。

そのすべてが、EchoRingの中に、光として刻まれていく。


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