おじいちゃんの映画館

舟筏

第1話◆プロローグ・大映画館。今は駐車場

 僕のおじいちゃんはもうすぐ九十九歳の誕生日を迎える。名前は寅吉、寅年の

生まれ。まだまだ足腰も頭もしっかりしていて、杖こそつくけど毎日ウォーキングに

出かけていく。

いつものコースには、途中小さな月極駐車場があった。おじいちゃんはここに来るとなぜか足を止めて、ぼんやりと駐車場をながめている。


「ここには昔、映画館が建っていた」


それが口癖だった。

古くは二軒あり、本館では主に時代劇を、二号館では洋画をやっていた。

やがて本館でどちらもやるようになり一軒にまとまったそうだ。

おじいちゃんはここの常連で、モノクロ映画のころから観に来ていた。

映画こそ、おじいちゃんの青春と言っていい。

おじいちゃん子の僕も、ここじゃないけどよく映画を見につれて行ってもらった。

おかげで僕も(ジェネレーションギャップは大きいけど)シネマファンの一員だ。


「誕生日おめでとうおじいちゃん。あと一年で百歳だね!がんばろう」


しかしおじいちゃんは


「いやいや、もうそろそろよかろうよ」


なんて寂しいことを言う。僕はもっともっと長生きしてほしいのに。

おじいちゃんはいつも、どこかさびしげだ。でも、映画の思い出話をするときは

楽しそうだし、ぼくも聞いてて楽しいので小さいころからいつも聞き手になっている。


最近、「CGがなかった時代!」などと言って昔の特撮をバカにしている投稿をよく

見るが、僕は別に面白ければ古くても新しくても見る。制作費や技術がすごくても、

最新作でもCGがあっても興味がないなら見ない、CGがなくても興味があれば

見る。それでいいと思う。

おじいちゃんの話を聞いていると、古い映画の方が楽しそうだ。だけど、

動画サイトをあさってもスマートフォンの小さな画面で見るのでは話に聞いた

壮大感が伝わってこない。

そういえば、キングダムの映画を見たときに今のサイズでもすごかったけど、もっと大きな画面で見れたら、迫力にパンチアウトされそうで面白いなあって思ったんだった。ショッピングモールシアターの画面は、おじいちゃんの言う映画館より小さい。

おじいちゃんはその大迫力をもう見てたんだ。うらやましいや。


「以前は三本立てだったんだぞ」


と、映画の半券を見せられた。確かにタイトルは三本書かれていた。

三本立てとはうらやましい!最近はお父さんの言う同時上映もなくなったんだから。

僕は映画館で一日過ごす自信があるから、どこかでやってくれないかな。

大人になってから僕から映画を誘ったが、おじいちゃんは昔の映画館の雰囲気が

好きだからと乗ってこなかった。確かに映画館は変わったし、おじいちゃんが観て

わかる作品も皆無だ。

おじいちゃんに何もしてあげられないのはちょっとさびしい。誕生日までに何か考えないと気がすまないし、申し訳ないよ。

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