第65話 親族間戦争最終決戦1


 前魔王グラディスが魔王になった時、長男と次男は大反対だった。

 長男が継ぐものと思っていたからだ。


 父ザハナーグは自分の長男次男に幼少の頃より人格的に難がある事を悩んでいた。

 そのせいもあって、上の子らとは歳が離れて出来たグラディスと、すぐ下のミシュレラの子供らしい素直さと真っ直ぐな性格を気に入り、とても可愛がった。

 この2人が異様に強い雷特性の魔法を持って生まれた事も、彼の贔屓の心に拍車を掛けた。


 特にグラディスは雷の他に土特性をも併せ持つという希少性が、継承者としての決定打となる。

 3人の男兄弟は魔王の座を争う為、度々大規模な力試しをさせられていたが、彼が負けた事はなかった。

 その事実もあり、ザハナーグはグラディスが二十歳になるとあっさりと引退して国民を説得し、彼を魔王に仕立て上げた。

 

 長いヴォルクリア王朝の中でも異例の覇王の誕生である。


 更に彼がある日突然、得体の知れない女性を連れて来て妃にした事も長兄次兄の気に障った。

 しかも生まれた子供、ヴェイルは王族にはあるまじき水・氷特性の魔法を持っている……


「王族は数百年代々雷特性の魔法の一族だ!分家ですら火焔なのだ。水や氷などという軟弱な特性の者が後の魔王となるのか!」

 

 王宮を飛び出した長兄と次兄は、古い考えが根強く残る地域を中心に支持者を集め、やがて潜伏生活に入った。


 ザハナーグやグラディスら王宮側は、身内への甘さゆえか、彼らの動きを本気で調べようとはしなかった。


 だがそれが、後に取り返しのつかない後悔をもたらす。

 先代魔王夫妻、長女、公子ロイの4人が同日に命を落とすという、王家最大の悲劇が起きたのだ。



 親殺しを正当な報いだと主張して譲らない長兄次兄合同軍と魔王軍は和解をする事もなく、それから幾度となく刺客が送り込まれ、ヴェイルとリュークが中心となって殲滅していた。


 それが、今から4ヶ月ほど前の、1年違いながら同じ日であるヴェイルとリュークの誕生日の1週間前、ついに決戦の火蓋が切られた。


 決戦を申し出たのはやはり長兄次兄合同軍の方である。

 一般の兵に犠牲を出す事を避ける為、魔王軍は規格外とも言える強者を集めた精鋭部隊、総勢150人を東西南北各砦に配置した。


 北砦、将軍ダロス、リュークの父ストリクを中心に30人。

 西砦、将軍エルマ、王妹ミシュレラを中心に30人。

 東砦、将軍サイラス、リュークを中心に30人。

 最終防衛ライン南砦は魔王グラディス、王太子ヴェイルを中心に60人が配置された。


 対する伯父達は南砦に240人、東、北、西の3箇所の砦に120人ずつを攻め込ませた。


 魔王軍の戦闘に参加しない兵達6,000人には、王妃パトラクトラの指示の元、ナザガラン国の面積約20,000平方ギガルドル(20,000㎢)全域に頑丈な絶域結界を張らせた。

 ナザガラン国境全長約600ギガルドルに結界塔を30基配備し、1基あたり200人の術者を配置したのだ。

 

 その広大な絶域結界は、グラディスとヴェイルを結界解除の生体認証鍵とし、本人達の意志、もしくは2人の死亡によってのみ解除される仕様にしたのである。

 

 これによって、彼等2人が死なない限り、ナザガラン国内に長兄次兄の手が及ぶ事はなく、国民は親族間内争が悪化している事は知らされずに通常の生活を送ることが出来ていた。


 それ程までに、彼等は国民の生活を優先した。

 自分達が敗北すれば、その民達が謀反者の支配下に治ってしまう。


 最終防衛ラインはなんとしてでも死守すべき砦となった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 戦闘は熾烈を極めた。

 賞金と地位を約束された傭兵団には強力な術者が多く、北軍将ダロス、東軍将サイラスは激しい戦闘の末に命を落とし、その2つの砦は制圧されてしまう。


 しかしながら絶域結界を解く為には魔王と王太子の死が必要だった。

 自ずと2人がいる南砦に敵が集まることになる。


 副将の任に就いていたストリクとリュークは臣下に命懸けで南砦に転移させられた。

 その後の各砦の悲惨な光景は、戦闘後のグラディスの魔王職の責任引退を決意させる事になった。


 結果的に南砦に敵軍も集まり、総勢300人程を生き残った10数名の魔王軍が倒さねばならなくなった。

 唯一残った西砦もいつまで持つか分からない。


 リュークの父ストリクはミシュレラと結婚するまでは王家分家の火焔連撃特化魔法一族の後継者候補だった。

 婚姻により王族に戻った為、家督は弟に譲っている。

 しかし一族の存続を重視した事により、王家親族争いには力を貸させる事はしなかった。


 その分彼は圧倒的な力を持って戦った。

 大鎌に火焔の強化術式をかけ、敵を薙ぎ倒す姿は正に鬼神だった。

 リュークも父の背後を護り、炎の剣戟で敵の数を減らして行く。


 敵側も魔法も織り混ぜ攻撃を仕掛けて来るが、彼等はそれを防ぎ、斬り込む。


 負傷は機動力を一気に低下させる。

 それを防ぐ為とはいえ、疲れを知らないかの様にその手が止まることはなかった。


 それでも味方の陣は1人2人と倒されて行き、その場に生き残っていたのはストリクとリューク、グラディスとヴェイルの4人のみとなってしまう。


 幼い頃から何かと面倒を見たり、優しく時には厳しく接してくれた臣下達が倒される度、王太子ヴェイルと公子リュークは血の様な涙を流しながら敵に斬り込むのであった。


 もはや敵の数を数える余裕すらない。

 異様な空気と人の燃える臭気が漂い、所々ピリピリと雷撃が立ち昇り、燃え切らなかった炎が残る南砦の合戦場は、正に地獄となっていた。

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