話そうぜ

 日本は負けた。


 戦争で。


 母さんはなにもしなくなった。


 家事も、食事も。


 ここ二日していない。


 俺は料理を用意するけど母さんは食べない。


 だから、結局俺が食べる。


 皆はどうしているだろうか。


 俺達の作業はする必要がなくなった。


 だから、小屋に行かなくても何も言われない。


 たまには行ってみようかな。


 一郎に会えるかもしれないし。


 次の日に小屋に行った。


 いつもの畦道には、灰を被った畑、死んだ魚が浮いている川。


 明らかになにかが違う。


 だからといって何かをするわけでもない。


 ただ違うと思うだけだ。


 小屋に着いた。


 誰もいない。


 やっぱりか。


 銃を持った先生がいるかもしれないところにわざわざ来ないよな。


 でも、一郎なら来る。


 そう直感した。


 ただの勘だけど。


 周りを見渡す。


 異様だ。


 油が垂れている機械、床に転がっている銃の形をした何か。


 火がついたらこの小屋は終わるな。


 そう思ったがつけようとはしない。


 火事は怖いからだ。


 後ろのドアが開いた音がした。


 一郎か?


 俺は振り返る。


「太郎か。」


 一郎だ。


 いつもどうりの一郎が立っていた。


 でも、いつもと違うのは銃を持っているところだ。


 俺は驚きで銃を見つめることしかできなかった。


 その様子に一郎が気づいた。


「これか?」


「何日もかけて作ったんだ。」


「凄いだろ?」


その様子はまるで最初の先生のようだった。


狂気だ。


イカれてる。


でも、俺はなにも言えない。


撃たれたら?


死ぬだけだ。


俺は両手を上げる。


敵意がないことを示すためだ。


一郎は狂気的に笑った。


「そんなことしなくていいぞ。」


「撃つつもりはないからな。」


「取り敢えず、そこに座ろうか。」


「少しだけ、話そうぜ。」

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