異世界転生で魔法チート無双!!のはずだった‥

ゲンダ

プロローグ


「――ヘルヴァン。本日をもって、お前を追放する」


 その言葉は、石造りの玉座の間に冷たく響いた。

 王城にも劣らぬ威容を誇る、グラン家の大広間――

 そこに立つ父は、まさに権力の象徴そのものだった。


 王に次ぐ力を持ち、国に三家しか存在しない“三代貴族”の一角。

 グラン家の現当主。俺の父だ。


 だがその眼差しは、今や息子を見るそれではなかった。

 まるで、目障りな塵でも見るかのような冷ややかな拒絶。


「……な、何故ですか、父上」

 足が震える。それでも、声を絞り出した。


 父は、当然のことのように答える。


「決まっておろう」


「お前は、“魔力を持たぬ者”だからだ」


 ……は?


 俺は、あなたの息子だぞ。

 血を分け、育てられ、未来を託されていたはずだ。


「三代貴族たる我がグラン家の後継が、“魔力無し”など……あまりにも愚劣! 王家に顔向けできんわ!」


 ただ魔力がないだけで、それだけですべてを失うのか?


「お待ちください、父上!」

 咄嗟に声が出る。否、出てしまった。


「黙れ」


 その一言で、空気が凍った。


「貴様は、今日この瞬間をもって、我が子ではない」

「“グラン”の名を二度と名乗ることも許さん」


 そう述べると父はゆるやかに手を上げる。

 その動き一つで、強烈な魔力が場を満たした。


 ――次の瞬間。


 目に見えぬ衝撃が俺の体を吹き飛ばした。

 城門の外へ、無造作に。まるで“ゴミ出し”のように。


 地に転がった痛みより、胸の内側が軋む。


「この程度の魔力も対処できぬとはな」

「……やはり、貴様は不要だったということだ」


「……父上」

 這うように立ち上がり、泥にまみれながらも、俺は言葉を搾り出す。


「私は、日々グラン家の名に恥じぬようにと努力してまいりました。作法も、言葉も、人としての在り方も……」


「知っているとも」

 あくまで淡々と、まるで“確認事項”でも伝えるかのように父は返す。


「幼き日より、父上に認められたくて……その一心で努力を重ねてきたのです……!」

 涙が滲む。悔しさが、苦しさが、言葉ににじむ。


「だが、“魔力がない”」

 それがすべてだとでも言いたげに、父は鼻で笑った。


 ああ、そうか。


 転生してから一年――この世界に馴染むため、貴族としての務めを果たせるように、俺なりにあらゆる努力を積み重ねてきた。

 最初はまともに握れなかった剣も、今では師匠が褒めるほど。

 魔法が使えるようになると信じ、魔法理論も学び続けてきた。


 俺は、見てくれていると思っていたんだ。

 認めてくれると信じていた。

 父も、母も。


 だが、それすら――魔力がないという“たった一つ”の理由で、全て切り捨てられるのか。


 怒りが、胸の底から這い上がる。

 歯を食いしばった口の中に、鉄の味が広がった。


  ……結局、世界が変わっても、人の本質は変わらない。

 前世と同じだ。

 力ある者がすべてを手に入れ、力なき者は全てを奪われる。

 俺はまた、踏みにじられる側なのか。


「……後悔させてやる」

 唇が勝手に動いた。


「必ず……必ず後悔させてやる」


 込み上げる怒りと悲しみ。

 その全てを、父に向けて叩きつけるように、睨んだ。


「ふん」

 父は冷笑ひとつ。まるで興味も価値もないものを見るように、背を向けた。


「外に馬車を用意させてある」

「送り先は、お前の新たな“居場所”だ」


 それだけ言い残し、父は一歩一歩、城の奥へと消えていった。

 俺という存在など、最初からなかったかのように――。

 

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