雨の巫女は龍王の初恋に舞う
和泉利依/ビーズログ文庫
序章
しゃらん
ぬばたまの
重さを感じさせない
清らかなその身を
輝加国の皇帝として即位したばかりの彼の後宮には、まだ一人の
そんな自分の想像にげんなりとしながら、龍宗は
「陛下、あの手前の娘など、
「いや、わしは向こうのきりりとした顔つきの娘が……」
「どうせならおとなしそうな娘がよいのではないですか。女は従順な方が
「そうじゃのう。それなら、あの左から二番目の娘など静かそうな……」
最初こそ、初めて見る貴重な雨の巫女の舞に感動していた大臣たちだが、
(まさか、今決めろと言う気ではないだろうな)
好き勝手にひそひそと
それは一番後ろにいた、線の細い少女だった。なぜか龍宗は、その娘から目が
小さく赤い
娘がくるりと回れば、絹にも似たなめらかな
その髪の色と同じく大きく
「あの娘はまだ子どもなので
「あの娘とは……」
「一番奥にいる娘です。一人だけ
言われるまで龍宗はそのことに気づかなかった。確かに彼女は、一人だけ濃い色をした衿の衣装をまとっている。
どうやらその色が気になって彼女を見ていたと思われたらしい。
龍宗は長老の
「あの娘は、なぜ一人だけ色の違う衿なのだ」
「はい、彼女は今、十五歳。十六になって成人しましたら、衿も大人と同じものになりまする」
この国では、女性は十六から成人として認められる。十五はまだ子どものうちだ。
「ですから陛下が皇后を選ばれるのでしたら、彼女以外の五人の中から、ということになります。いずれの巫女を選ばれましても、皇后として申し分のない立派な巫女たちにございます」
「ふん……」
長老の話を聞いている間も、龍宗の目は無意識にその娘を追っていた。理由は龍宗自身にもわからない。
彼女の
一通りの舞が終わると、巫女たちはその場に
「お前たち、顔をあげなさい」
巫女たちが、ゆっくりと体を起こす。どの顔も
目の前にいるのは夫となるかもしれない男だが、
緊張する巫女たちを長老が
「
最後に名を呼ばれたのは、先ほどの一人だけ衿の色が違う娘だった。
龍宗は、じっ、と璃鈴を見つめる。璃鈴も、その
(何もかもが強烈な人)
それが、璃鈴が最初に感じた龍宗の印象だ。
この場にいる大臣や官吏を
ただ座っているだけなのに、その姿からは
(そして、
龍宗の全てが、
それを璃鈴は、美しいと思った。
その姿はまさに、古くから語られる気高く強大な力を持つ
龍宗が立ち上がった。あたりが緊張する中、無言で背を向けて、そのままもう振り返ることなくその場を後にする。周りに座っていた大臣たちも、
「
舞の間、一言も発さず龍宗の後ろに
みなが去ると、巫女たちはようやく緊張をといて深く息を
璃鈴は、強烈な意思を持った龍宗の瞳を、いつまでも忘れることができなかった。
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