第5話

管理人の言葉に一瞬思考停止したが。

俺にはあるじゃないか。


例のドブ川だ。


一気に気分が楽になった。


プヒュー プヒュー


口笛らしきものを吹きながらお宝を掘りに向かう。


スールー通りを戻り朝飯屋の手前で右に曲がると、

足音を消して裏手に回る。


スコップは。


見ると新品に戻ったスコップがきちんと元の位置に戻っている。

よしよし。


傍に張り紙があった。

おそらく盗むなとか訴えるとか書いてるのだろう。



もちろん無視する。


今回は壊さないから大丈夫。

なんせ今の俺には余裕ってものがあるからな。


スコップを片手にドブ川をのぞき込む。

覗き込んだ俺の顔が水面に反射してハッキリ見える。




ん?綺麗になってないかこれ。


しかもこの前掘り返した土砂が川の周りに小山になっていたはずだが今は無い。


状況を把握出来ずに立ち尽くしていると、

少し離れたところに立て札があるのに気がついた。


迷惑行為があった為川の清掃を実施。



ガシャン


瞬間的に手に持ったスコップを地面に叩きつけ、

腹いせに家の方へ思い切り投げつける。


それがうまく地面に刺さった。

それもすごく綺麗にサクッと。



いつもなら喜ぶところだが今はそれどころではない。


手に掴んだはずの勝ち組になれる秘密のロジック。


老後資金を奴らから搾取した金て賄うという俺のライフプランが見事に崩れさった。




ボーッとしながらそれから2時間さまよっている。


目的地などあるはずもない。


宿にも泊まれない。

ダンジョンにも潜れない。


残る手段は1つしかない。


売るか。


買ったばかりのまだ使ってもいない装備を売るしかない。


足取り重く装備屋へ向かおうと振り返った時。

2人連れの冒険者とぶつかりそうになった。


死人のような俺の顔を見て女性冒険者が悲鳴をあげる。


ただそれすら今の俺には響かない。

俺の心はノーリアクションだ。


赤いバンダナを付けた男の方が少し引き気味ながらも謝罪の言葉をかけてくる。


無視して立ち去ろうとしたが。


更に男が引き止めてきた。

どうやら話があるようだ。



聞くとこの街に来たばかりの流れのパーティらしい。


4人構成らしく戦闘員は揃っているが、あと一人戦闘補助兼荷物持ちを探しているとのこと。


俺の身なりを見て最低限の装備は身に付けている上に、この昼間にうろついてるのは暇や奴だと目星を付けられたようだ。


提示された報酬はダンジョン1回探索で銅貨15枚。


ほう。


気前の良さに驚き初めて相手に目を向ける。


それもそのはず、2人ともかなり良い装備をしている。

これはD・・いやC級冒険者か。


ここで思案する。


C級ともなるとダンジョン探索の階層が全く異なる。

おそらく地下4階、5階。


必然的に魔物は強力になり、俺など1人ではものの5分ともたないだろう。


リスクは増える。


が、こいつらは相当強そうだ。


それに戦闘補助と言っても松明で照らしたり、魔道士のスクロールや各種ポーションを持ち運び、手渡す。

食料の用意など、完全に後方支援となる。


依頼を受けることにした。


装備を売るよりはいいだろう。


明日の朝、ダンジョン前で落ち合う約束をし宿へ戻る。


事情を説明すると更に報酬を銅貨5枚上乗せしてくれた。

しかもその分前借りで。


ほんといい奴らだ。


人の優しさに触れたのはいつ以来だ。

それに他人とパーティを組むのは。


暖かい気持ちに浸りながらいつものコル酒を味わう。


飲みなれた安酒だが今日は特別な味がした。


第5話完

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今回の収支


収入

・恵んでもらった 銅貨5枚

支出

・いつもの 銅貨5枚


収支 ±0


所持金 銅貨2枚

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