第32話 バカの歩む道⑥~魔物の所業?
「行け! "狂乱の黒鈴”。我らに協力しない植物共など、なぎ倒して肥料にしてくれよう!!!!」
「なにぃっ!!!?」
ガラーーーーン!!!!
シャラーーーーン!!!!!!
公爵が取り出した魔道具に公爵の魔力が流し込まれ、巨大な音と共に黒い光が放たれる。
「なっ、音に魔力を乗せることを禁忌とする者達が、それを魔道具として使うとはどういうことだ!!!?」
そんな中で叔父様の叫び声が聞こえるが、今は気にしている余裕はない。
これは……
「さぁ来い! ウインドドラゴンを鎮めるための嵐を起こす魔道具ではあるが、嵐であれば植物どもにも効くだろう! 王国を……私を足蹴にしたことを後悔するのだ!」
「バカな。自棄でも起こしたのか! そんなことをしても貴様ら王国には協力せぬぞ!」
魔道具を掲げて見下すような視線を向けてくる公爵にお父様……樹族の長老が怒鳴る!
「くっくっく。いつまでそんなことが言っていられますかな? 別に構いません。協力しないのならこの森を破壊し尽くすまで。嵐によって滅んでいく様を鑑賞していればいいでしょう。それに、壊滅させてしまえば、そこに我らが新たな国を建国する。お前たちはそこで奴隷として使ってやろう」
「なにを!?」
「知っているのだぞ? この森の中央にある大樹のことは。そこにいる精霊にお前たちが従っていることは。ゆえにこの"狂乱の黒鈴"を大樹につきつけて命令するのだ。我らのための盾になって死ねとな。あ~っはっはっはっはっは」
最低な考え方の持ち主ね。
反吐が出るわ。
そんなことができると思っているのなら、大馬鹿ね。
「情報の少ない中で都合の良いように組み立てた考えだと思うが、確かにその魔道具はやっかいじゃのう」
「ふん。理解したのなら請うがいい。命を救って欲しいと。私の足でも舐めたら考えてやるぞ?」
「不要じゃな」
「なに!? 森や樹族がどうなってもいいのか?」
「どうにもならんゆえに不要じゃと言っておる」
「なにを!? 今は脅すだけにしておくつもりだったが、ならば思い知るがいい!」
ちょっとお父様?
考えはちゃんとあるんでしょうね?
漏れ出てくる力だけでも、その魔道具は相当なものよ?
バカが自信を持つだけのことはある……気がするんだけども?
「"狂乱の黒鈴"よ! その力を解き放ち、この地に破壊をもたら……ぐあぁぁああああ……」
「うごぉぉぉぉおおおぉぉぉおおお」
「えっ?」
魔道具を掲げて力を発動させようとした公爵の真上に突如として影が現れたかと思ったら、それが公爵に向けて落下し、ぶつかりあって呻いている。
何この絵づら?
「いまだ。捕らえよ!」
「「「「はっ!!!!」」」」
しかし、こうなることがわかっていたかのようにお父様は衛兵たちに命じて公爵を捕縛した。
ついでに鼻もちのならないバカな王女や、王国からの使節団員を全員。
ちなみに、落ちてきた人をどうしようかしら……。
とりあえず縛っておく?
「その方については捕縛するのはやめておいてほしい」
「しかし、この男も見る限り王国の民。であれば、事情がわかるまでは捕まえておくべきではないかしら?」
「やめておいてほしい。理由は後で話す」
「そう……そこまで言うならわかったわ」
失敗ばかりの叔父様だけど、私は寛容なのですから。
「ありがとう。では、使節団の者達に問いたい」
「「「???」」」
すると、叔父様はそのまま縛られて座っている使節団のものたちに話しかけ始めた。
どうしたのかしら?
「音に魔力を乗せたメルティア様のことは魔物呼ばわりで婚約破棄して追放までしたのに、公爵が魔道具によってそれを成すのは良いのか?」
「そっ、それは……」
「我らには判断できませぬ」
「やはりあれは音に魔力を乗せているのか……」
どういうこと?
と、一瞬私もわからなかったけど、王国民たちの反応を見て叔父様の意図は確認なのね。
これ、もしかして結構奥が深い問題なのかしら。
私たちはメルティア様にさえ会えればいいし、メルティア様にお仕えするつもりでいるけど、王国がメルティア様に非礼を働いていたならもちろん許さない。
でも、非礼どころか、かなりあくどいことをされていた可能性があるってことよね?
だって、同じことをしたのに扱いが違うだなんて。
公爵自身が王国の意思や法律や慣習を破っているのか、それとも?
「この魔道具は王国でも禁忌となっているものです……」
「なのに公爵は使った。ならば公爵は貴国の中で罪に問われるのか?」
「それは……」
しかし、使節団のものの言葉ははっきりしない。
もしかして常日頃から使っていたとか?
なのにメルティア様のことは断罪したの?
なぜ?
これ、どうやって整理しようかしら……。
「何を話しているの!? メルティアなんかと公爵では責任も権限も違って当然でしょ!? 公爵は国を守るために禁忌だと知って使っているだけよ!」
「「「……」」」
と思っていたのに、全てを超越したバカが錯乱してるかのようなことを叫び、使節団の人たちが青くなった。
あなたの国って王政ではあるけど法律を制定してそれを守っていたわよね?
いくら高位貴族だからといっても、簡単にその法律を破っていいなんてことにはならないんじゃないかしら?
だから周りの人は驚いているんじゃない?
「なによ。ルバーダ子爵。なんとか言いなさいよ! 公爵はずっとウインドドラゴンから王都を守るためにもこの魔道具を使って、身を粉にして戦ってきたでしょ!? 知らないはずないわよね!?」
「エシャルロット様……」
これ、黙ってみていれば全部自爆してくれそうよね。
いいぞ、もっと喋れ。
聞き心地は最悪な声音だけど、楽しくなってきたわ。
「ずっと、今の魔道具を使ってきただって!? それなのになんでメルティア様を追放したんだ!? ただただ第三妃様のもとに生まれたメルティア様のことが疎ましくて追放しただけじゃないか!」
と思ったのに、割り込んできた怒鳴り声。
邪魔をしないで、と思ったけど、それは私にとっても許せない内容で、公爵に降ってきた男の人の声だった。
そして怒ってる。
この人はメルティア様側の人なの?
そう思えば、叔父様が彼を捕縛しないように言った理由がわかった。
「なんですって? あなたは誰? いや、思い出したわ。バカな姉を追放するときにお父様と公爵に盾ついて哀れなメルティアの従者にされた残念な子じゃない。あなたは平民のくせに許しもなく王女である私に声をかけるなんて、不敬罪で処罰するわよ!」
「ここは王国じゃないし、僕はもう王国民じゃないから処罰される謂れなんてないぞ!」
「なんですって!!!? 公爵が優しさで見逃してあげたというのに、なんという失礼な男なの!?」
もちろん、この場で何があっても樹国はこの男の人の味方をするから、処罰されるなんてことはないから安心して欲しい。
今は周りが見えてないみたいだけど、メルティア様の従者ってことなら捕縛なんてしなくてよかったわ。
「そもそもそんな魔道具があるなんて僕は知らなかったぞ!」
「当たり前でしょう? あなたは元騎士と言っても見習いじゃない。そんな人に大事なことを伝えるなんて、それこそあり得ないわ!」
「ずっとその魔道具を使ってきたのか?」
「そうよ! それで国を守ってきたの。あなたなんかにその苦労はわからないわ!」
「僕にはわからないかもしれないけど、メルティア様にはわかるだろう。だからこそ、樹国の使者の方に癒しの音楽を奏でたんだから。なのに、なぜメルティア様を追放した!」
癒しの音楽?
樹国の使者に?
それって、叔父様のことよね?
なにそれズルい!
叔父様は1人だけメルティア様の恩恵を受けていたの?
なのにみすみす国外追放されるのを黙って見ていたの?
許せない……。
そんなことを思いながら叔父様を睨みつけたけど、いつも通りこっちを見ることもなくひょうひょうとしている。
許せないわよ?
「メルティアの追放なんて15年前から決まってたのよ! 当たり前でしょう? 誰にも望まれない妃とその娘。先代国王であるお爺様が戦場で助けられた恩を返すと言い張ってお父様やお母様たちの困惑を無視して結婚なんてさせるからこんなことになったのよ。しかもメルティアにはお爺様の遺産が残され、それは15歳になるまで王宮に住んでいないと継承されないものだったの。だから仕方ないじゃない。まぁ、ちゃんと15歳を迎えて遺産を継承した後に追放されてくれたおかげで今では私のものよ。魔物の所業を行うような娘に価値なんてないのだから、私のためにお爺様の遺産を継承してくれてありがとうってことね」
「なんだと!?」
なにか突然いろんな話が入って来たわね。
望まれない妃って言うのがメルティア様のお母様で、メルティア様が"天命の葉"を生み出す理由になった方だと思うのだけど。
しかし、なぜこの王女はこんな話を突然し出したんだろう。
今その話をして何か利点があるの?
ただバカだから、にしてはちょっと引っかかるわね……一応……。
「ふふふ。ちゃんと見せてあげるわよ。私が継承した魔道具の力を!」
「なに!?」
あぁ、そういうこと……。
それで自信満々だったのね。
「へぇ、そういうことだったの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます