第54話 死と鎧の真実


「お前は何故此処に来た? 此処はお前の世界じゃないぞ……」


「あの、僕は……」


「うむ。死んだのは間違い無いが、ここはオリンポスの世界。 儂の名前はハーデス。冥界の支配神……だが、お前は此処の……あっ、そうか、お前にはかすかにヘラの加護が感じられる。 ヘラの元へ送るとしよう」


「あの……ヘラ様って誰ですか? ユノーラ様、もしくはイシュタス様じゃないんですか?」


目の前にいる人物の威圧感。


僕は死んだのだから、死後の世界に来た事は確実だ。


だが……ハーデス様って誰なんだ。


それにヘラ様って……


◆◆◆


気がつくと今度は暗闇だった場所から、光り輝く神殿に来ていた。


「誰です! 此処は神々の母ヘラの神殿です……!」


「すみません、何故か此処に……理由は解りません」


「その鎧は……そう、その鎧を着ていたから此処に来たのですね」


「はい、僕は戦いの中死んで此処にきました」


何故だろう。


この女神様は慈しむように僕を見ている。


いや、鎧を見ている。


「その戦い、勝ちたくはないですか」


勝てるのか……あのバルガンに……


「勝ちたい! 勝ちたいです!」


「その鎧には、異形の英雄アルゴスの魂と私の忠実な使い魔クジャクの魂が宿っておる。その魂と融合すれば、お前は神々とも戦える英雄となろう。だが、それはお前でなくなる事を意味する」


「僕で無くなる?」


「ああっ、アルゴス、クジャクの魂と交じり合うのだから……どうなるか私にも分からない。だが、アルカディアの雄牛に怪物の母と呼ばれるエキドナとすら戦い勝利した英雄アルゴスと交わるなら、真の英雄となる……どうする?」


ライト様、マリアンヌ様、リメル様、リリア様……が守れるなら。


僕なんてどうなっても良い。


「お願いします」


僕がそう答えると途端に頭が痛くなり再び世界が暗転した。


◆◆◆


百目の巨人。


綺麗な羽の鳥。


が僕の前に現れた。


「貴方が……」


「俺の名はアルゴス……英雄アルゴス……」


「くえぇぇぇ――」


頭の中に直接声が響いてくる。


それと同時にこの英雄の記憶が伝わってくる。


信じられない程大きなミノタウルスと戦い、下半身が蛇の恐ろしき化け物と戦う姿が……その壮絶な生き方。


そして悲惨な最後が……


一通り記憶が伝わると、頭の痛みが消えていき……


「お前の自由に生きるが良い……俺はもう死んだ人間だ。 それにお前が戻る世界にヘラ様はいない……俺がやるべきことは無い。 お前の体に宿り、お前の生き方を見守るとしよう」


「くえぇぇぇぇぇ――」


僕は再び、意識が薄れていき気を失った。




◆◆◆


私の名前はヘラ。


オリンポスの神々の母。


あの鎧を見ると懐かしい思いが浮かんできました。


その昔、私には百の目を持つアルゴスという優秀な部下がいました。


『万物を見通す者』と呼ばれ数々の魔物を倒した私の部下。


ですが、私達の夫婦喧嘩に巻き込まれ命を落とす事になりました。


夫ゼウスの浮気を見張らせると、アルゴスの目を誤魔化せないと悟ったゼウスはヘルメスに頼み、笛の力ですべての目を眠らせ、アポロンにより首を跳ね飛ばし殺したのです。


本来なら、忠実に仕事をこなしたアルゴスは『英雄』として称えられ、場合によってはネクタルを与えられてもおかしくない存在。


ですが……浮気の発覚を恐れたゼウスの判断で彼の功績は認められなかったのです。


彼を哀れんだ私は、その百目の力をクジャクに移し、使い魔として寵愛しました。


そして使い魔のクジャクの死後、どうする事も出来なくなった私は……


鎧にその魂を移したのですが、その存在をゼウスに知られ……それがこの鎧の本当の由来です。


ユノーラとは私の並列世界の名前、別世界での呼び名なのです。


私は……別世界の私、ユノーラに記憶と共にこの鎧を託したのです。


ユノーラとしてはいきなり記憶と共にこの鎧があったのですから、きっと記憶は混乱したと思いますが……どうやら、齟齬は上手く補填され上手くいきました。


そして、アルゴスの魂は無事にゼウスの世界から異世界へと逃がす事に私は成功したのです。


あの世界の私、ユノーラはあの世界を離れ別世界へ。


その後、一神教の神イシュタスが治めているとユノーラから伝わってきました。


一神教の女神、イシュタスの信仰が強い中……きっとアルゴスは戦う事もなく、鎧に宿りながらきっと安らかに眠る。


そう思っていましたが......まさか再び出会うとは.......眠らせなければ神々ですら倒せないアルゴスの力......あの少年がどう使うのか、偶には見て見ますかね。







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