世継ぎ争いに巻き込まれて誘拐された令嬢は名誉も地位もすべてを手に入れる
中川あとむ
第一章 怪盗編
第1話 宝剣
はじめに
当面は一日に一話のペースで投稿していく予定です。
--------------
私の名はスカーレット。
エルバイン王国ハルフォード伯爵家の長女で十六歳。金髪碧眼だ。
今はまだ成長期で、私としてはもう少し出るところが出て欲しいと思っている。
容姿については周りの皆が、将来は王国一の美女になるに違いない、と励ましてくれているところをみると、そうではないという事なんだろう。
私はいつもの様に自室の窓際のテーブルで、花が咲き誇った庭を見下ろしながら朝食を済ませたところだ。
侍女のエリーが食後のお茶を淹れてくれたので、それを飲もうと手を伸ばしたところに父の声が屋敷中に響き渡った。
「なーーーーい!」
私の父はアラン・ハルフォード。
四十三歳で、金髪碧眼のちょい悪オヤジ風。
外見はそこそこいいと思うのだが、ちょっと頼りないところがある。
私は父の声がしたと思われる居間へ行った。
「お父様。何が無いのですか?」
母もやって来た。
「あなた。どうされたの?」
母の名はセシリア。四十一歳でライトブラウンの髪にグレーの目。
私から見ても美人だと思う。
しっかり者で、この家は母が切り盛りしていると言っても過言ではない。
さらに、兄が眠そうな顔で現れる。
「どうしたんですかぁ?」
エドガー。十九歳。
兄は母親似で、ライトブラウンの髪にグレーの目。
日頃から自分のことをイケメンだと言っている。
侍女から聞いた話では、夜な夜な歓楽街で酒を飲み歩いているらしく、眠そうなのは昨晩も夜遅くまで遊び歩いていたにから違いない。
「皆。ここに飾ってあった宝剣を知らないか!?」
父がそう言って暖炉の上を指した。
暖炉の上にはいつも木製のスタンドの上に飾りのついた剣が飾ってあったが、今は空になったスタンドだけがある。
私と兄は首を横に振る。
「最後に見たのはいつですか?」
母が聞いた。
「昨日まではここにあった。それが今日見たら無くなっていたのだ」
「という事は昨晩に?」
あれを家の誰かが勝手に移動するという事は考えられないから、盗まれたという事なのよね?
「あんな剣、大した価値も無いでしょう?」
と、兄が眠そうに。
「昔お前たちにも言ったことがあったと思うが、あれは私の父が前陛下から頂いた大切なものだ。金には換えられない」
確か祖父が騎士だった時に戦場で前陛下の命を救い、その褒美として前陛下が持っていた剣をその場で下賜され、さらに伯爵位を頂いたって言ってたわね。
「そんなに大事なら、しまっておけばいいんですよ」
「確かに金額的な価値は低いから、盗む者はいないだろうと油断していたんだ。いったいどうしたら……」
「何をそんなに深刻になっているのです?」
「実は今日の宮中晩餐会の前に、陛下があの剣をご覧になりたいと連絡してきたのだ」
「盗まれた事が知れたらどうなるのです?」
私が聞いた。
「お叱りだけで済めばいいが、もしかしたら爵位の降格か、下手をしたら爵位のはく奪もあるかもしれん」
管理不行き届きってこと?
もし爵位をはく奪されたら平民か……。
「その時はその時ですわね。私は商家の出ですから、商売でもしましょうか」
母は肝が据わっている。
「貧乏は困るなー。遊べなくなってしまう。いっそのことクリスティーヌのヒモにでもなるか……」
と、兄。
「お兄様。クリスティーヌとはどなたなのです?」
私が聞いた。
「『紳士クラブ』で一番の売れっ子なんだけど、僕にメロメロでね。きっと僕のことを養ってくれるに違いない」
紳士クラブ? ……たしか女性が酒のお相手をしくれる店があるとか聞いたことがあるわ。その店の事かしらね。
「はぁー」
母が大きくため息をつき、私もこめかみを押さえる。
貴族の子息がそういう店で遊ぶのはよくあることらしいが、それよりも私は兄がその女性の営業スマイルにまんまとだまされている事に気が付いていない、ということに頭を痛めたのだ。
「それはきっと、お兄様が上客だからに決まっています。貧乏になったら見向きもされないと思いますよ」
すると兄は焦りだした。
「え、そんな……それはまずいぞ……」
「お前たちはどうしてうちがつぶれる事しか考えないんだ。何かいい方法がないか知恵を絞ってくれ」
と、父。
「剣の事はよくわかりませんけど、それなら似た物を買ってきたらどうです?」
母が提案した。
「前陛下が短剣と一対で特注で作られたものらしいから、同じものはないだろう。それに短剣の方は現陛下がお持ちだ。ちょっとでも装飾が違えばバレてしまう」
「それなら。とりあえず私が叔父様に相談に行ってきましょうか?」
私が提案した。
叔父、つまり父の弟はこの王都の警備を担当している第二騎士団の副団長だ。
犯人探しなど、相談に乗ってくれるに違いない。
それに、もし運よく犯人が別件ですでに捕まっていたりすれば、剣は叔父たちの元にあるかもしれない。
そして父や母は確かこのあと来客があるはずだし、兄は暇だろうがあまり頼りにならない。
私が行くしかないだろう。
「いつもお前が一番まともな事を言ってくれる。自慢の娘だ。……では、行ってきてくれるか?」
「わかりました」
私は居間を出ると、廊下で控えていた侍女に声を掛ける。
「エリー」
エリーは私より五歳年上で、私が小さいころから仕えてくれている。
「はい」
「これから叔父様のところにお使いに行くから、馬車の準備をするように伝えてもらえる?」
「かしこまりました。朝早くから何かあったのですか?」
「この屋敷で盗難があったみたいなの」
私は支度をしてから、エリーを連れて馬車で出発した。
叔父は日中は宮殿に隣接する騎士団の詰め所にいるはずなので、そこに向かう。
私たちを乗せた馬車は、王都の貴族街を進んでいった。
貴族街だが、この国では時々不祥事で降格や廃爵になる貴族もおり、そのために空き家もある。
降格や廃爵になれば財政的に今までの大きな屋敷を維持することが出来なくなり、身の丈に合った小さな屋敷に住み替えるからだ。
その空き家の前に来た時だ。
「お嬢様、襲撃です!」
御者が叫んだ。
えっ!? こんな街中で?
王都内の、しかも最も治安がいいとされる貴族街で襲撃があるとは思いもよらず、護衛の兵士も連れてこなかった。
窓から外を見れば、馬車はすでに盗賊風の男たちに囲まれていた。
「お嬢様はお下がりください!」
同乗していた侍女のエリーが、私と扉の間に立つ。
その直後、馬車の扉が外から手荒く開けられて、エリーは馬車に乗り込んできた男にあっけなく気絶させられた。
入ってきた男の装いは盗賊のようであるが、私はその男たちの雰囲気が訓練された兵士のように思えてならなかった。
どうしてそう思ったのかというと、私は屋敷で常日頃から兵士たちの動きを見る機会が多い。
ハルフォード伯爵家は祖父が騎士だったこともあり武術を貴んでいる。私には力が無いので途中でやめてしまったが、小さいころには剣を習ったこともあった。
そのせいか、今でも兵士たちの訓練や動きに目が向くことが多い。
その男はエリーを馬車の外にいる仲間の男に渡すと、今度は私の方へ近づいてくる。
「ハルフォード伯爵家のスカーレットだな? おとなしくしてもらおう」
「あなたがたは!?」
その直後、私は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます