第2話 キャンドルライトディナーって言うほど洒落てない

私たちはいま、町から少し離れた草原の中を歩いている。

西空が少しずつ穏やかなキャラメル色に染まり、草原を金色の光を浴びさせた。草を波のように揺らすそよ風が心地いいけど、太陽が沈みかけている今じゃ段々少し肌寒くなってきた。


うーん、予定より随分遅くなったな。


なぜかというと。


魔の森を出てからも、仇で来たのか、ホーンラビットにでくわしまくったよ。私、関係ないのにこう喧嘩に巻き込まれるなんて理不尽。ホーンラビットの返り血でドロドロだった彼に、得意でもない洗浄魔法を何回もかけたよ。


あとね、うちの問題児イケメンくんがね、また次から次へと宝箱を見つけ出したんだよね。森の外が見晴らしの良い草原になっているからもう隠せる所ないんだと普通思うでしょう?アマイ!!草原にあった宝箱は、まるで幻術でもかけられていたように見えなかったのに、イケメンくんに触れるとすっと空気から出てきたよ!


ワォ、マジック。


あんなぶっ飛んだ魔術をかけおいて、何で中身が相変わらずショボいんだよ?穴が空いた片方のブーツって、立派すぎるゴミの不法投棄じゃん。


色々(精神的に)疲れてはいるけど、とても良い収穫だ。割と大きい方のアイテム収納付きなのに、バッグがホーンラビットでパンパンになった。大声で言えないけど、私の自慢なバッグちゃんはなんと、時間フリーズの機能もついているから、ホーンラビットの新鮮なお肉が食べれる楽しみでほくほく気分だわ。


夕陽を浴びたキラキラ問題児イケメンくんも何だか可愛くみえてきた。


「町の門が見えてきたね!今日はもう遅いからギルドへ行くのを明日にしよう。」


「...」コクコク


森の中で彼のことを聞いてみたけど、記憶を無くしたらしい。持ち物もないし、着てる服はどこにでもあるようなシャツとズボンのみ。だからギルドで彼を探している依頼が出ているかを確認しに行こうと思った。なければ、ホーンラビットの買取報酬で情報探し依頼もできる。


「あとで美味しいもの食わせてあげるよ。

今日の夕食、ホーンラビット!君の戦いを待ってた間に何体か血抜きして解体したけど、正解だったね。すぐに調理できそう。

何作ろうかな〜ラビットシチューも美味しいけど、カリッとしたラビットパイも捨てがたいな〜

いやでも、ものすっごく沢山あるから、豪華にハニーグレーズ丸焼きでも良さそうね!」


「...」ジュル〜コクコクコクコク


あれこれ考えて町に到着したのが門限ギリギリの時間だった。


ーーー


リエル町は魔の森と中級ダンジョンの日帰りで徒歩で行ける距離にあって、冒険者で栄えている町。王国とギルドに重要視され、町の治安や生活水準もそこそこ高い。


日収のC級冒険者の私でも、2階建てのタウンハウスを借りることができる。こぢんまりでレトロなお家だけど、水道からお湯も出るし、台所も改装したばかりで魔石式コンロとオーブン付き。去年、念願の中古冷凍冷蔵庫もやっと奮発して買った。自慢のマイキッチン。


そんな不自由もなく一人暮らしをしてきたが、今日ははじめてのお泊まり客が来た。


「ここで靴を脱いで上がってね。はい、スリッパ。」


「...」コクコク


若干緊張してる顔でスリッパを受け取ったイケメンくん。おずおずしながらも大人しく靴を脱いでスリッパで上がったが、私に大きくて履けなかったスリッパが彼の足に小さく見える。踵が半分はみ出てる。


「あれ、スリッパ小さいな。うーん、ごめん今日はそれで我慢してね。」


「...」コク


「さあ、入って入って。」


1階は台所とお風呂とお手洗い、2階は寝室が2つある。片方の寝室は書斎兼ねて調薬スペースにした。


イケメンくんにお風呂へ案内して使い方を簡単に説明した。さすがに彼サイズの着替えはうちにないから、今着ている服を洗浄魔法をかけて我慢してもらう。


その間私はテキパキと夕食の準備をする。時間がないから今夜はシンプルなシチューにしよう。ホーンラビットの肉を一口の大きさに切り、自家製ヨーグルトで臭みをとる。ラードを溶かして、ベーコンと刻んだ玉ねぎときのこを順番に鍋に入れて炒める。肉にきつね色がついて、ベーコンがカリカリ、玉ねぎが透明になったら鶏ガラのストックを入れる。家庭菜園のセロリとハーブを入れて煮詰める。今朝焼いたパンをオーブンでトーストして完成。デザートに実家製牛乳アイスクリームもあるので、我ながら豪華なご馳走ではないか。ドヤ〜


途中でイケメンくんが少し濡れた髪でお風呂から出てきた。恥ずかしそうに頬を火照る湯上がりのイケメンくんめっちゃ目の毒だわ。ご馳走様。


シチューが煮詰めている間に彼の髪を魔石ドライヤーで乾かしてあげる。私ってこんな母性あったっけ。あ、違ったわ。長身な彼が自分を出来るだけ小さくしようというかしこまった姿勢を見ると、子供よりもちょっとおバカさんの大型犬に見える。失礼なことを思いながら夕食の準備ができた。


「...」パク

「!!!」モグモグモグモグモグモグ


キラキラした目で良い食べっぷりを見せた彼をみて、お母さんうれしいー(違う)。シェフでグルメな私のエゴがいかにも満たされて、思わずずっとニコニコだった。おかわりも沢山あるから、たんとお食べ。


二人でフルコースのディナー平らげた後、私がお風呂に入っている間、彼が皿洗いとテーブル拭きを済ませた。キッチンもピカピカで、そこも掃除してくれただろう。今のイケメンくんがホウキを手にとって黙々と床掃除をしている。


…頭の中の「訳あり貴族坊ちゃん説」をリストから消去した。主婦並みの掃除力貴族坊ちゃんなんてないない。


でもそれでよかった。貴族に関わると面倒しかないしね。


ふーあーむにゃむ。レディにあるまじき欠伸出ちゃった。もう寝よう。


「君、悪いけどここに寝てもらうね。」


テーブルを壁に寄せて、予備の布団を床に広げた。先掃除してもらったから床も綺麗だし。今夜だけだから我慢してもらう。


「照明消すね。おやすみ。」


「...」ペコ


照明を消して、二階の寝室へ上がった。独身女性が知らない男を家に泊まらせるのは大変危険なことだ。どんなに無害そうな人でもそうやすやすと信頼してはいけない。けど、私はランクこそC級だが、普通の女性でも冒険者でもない。イケメンくんをざんざん訳アリ呼ばわりするけど、実は私も凄く訳アリなんだよね。敵が勇者レベルでない限り、対処できる自信ある。ただ、完全無防備でいたら逆に怪しまれるので一応ドアのロックをかけた。


あー疲れた。忙しくなりそうだから早く寝よう。今日は色濃い一日だったが、誰かと一緒に美味しい食事できるのが楽しかったね。明日からまたお一人様ディナーになるのが少し寂しく思ってしまう。


あの時そう思った私は、きっと変なフラグを立ててしまった。

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