第7話【言わなければ】
〇 ペンション・朝(食堂)
全員が揃って朝食を囲む。
昨夜の“何か”が尾を引いて、
空気がどこかぎこちない。
翔太
(空気を読まずに)
「朝ごはんの焼き魚って、
なんでこんなうまいんすかね?」
ゆい子
「焼き魚に罪はないよ。」
あこ
「ほんとそれ……」
(もえと圭吾はあまり目を合わせていない。
力丸は静かにそれを見ている)
⸻
〇 ペンション・中庭(午前)
ゆい子とあこが散歩。昨日の夜の話をあこが切り出す。
あこ
「見ちゃったんだ。
夜、もえちゃんと圭吾くんが一緒にいたの。」
ゆい子
「……そっか。」
あこ
「笑っちゃうよね、
こんな旅行来てまで傷つきに来るなんて。」
ゆい子
「でも…ほんとはわかってたよ、うすうす。」
あこ
「自分が“選ばれない側”なんだって、わかってても、信じたくなかった。」
ゆい子
「……わかる。すごく。」
(ふたり、無理に笑いながら歩く)
⸻
〇 函館山・ロープウェイ(午後)
6人で観光に出かけるも、
無理やり盛り上げてる空気。
もえ
「ほら、景色キレイだよ!ねぇ、写真撮ろうよ!」
もえがみんなに声をかけるが、誰も積極的に動かない。
翔太
「なんかさ、急に“仲良しごっこ”って感じっすね。」
力丸
「翔太、お前……」
翔太
「だってさ、誰もほんとのこと言ってねぇのに、
楽しいフリして何になるんすか?」
(沈黙。もえ、傷ついた顔)
⸻
〇 ロープウェイを降りた後(外)
翔太が一人歩いて行こうとすると、力丸が追いかける。
力丸
「おい、翔太。お前、さっきの言い方はねぇだろ。」
翔太
「俺、ずっと見てましたよ。
もえさんと圭吾さん、昨日の夜、外にいたのも。」
力丸
「……それで?」
翔太
「あんた、何も言わねぇじゃん。
何も感じてねぇの?それとも“譲る”つもり?」
力丸
「……俺が言わなかったのは、
“言いたくなかった”からだよ。」
翔太
「ずるいよ、それ。」
力丸
「そうかもな。」
(ふたり、言葉をなくす)
⸻
〇 夕方・ペンション(リビング)
あこが洗い物をしている。そこに圭吾が入ってくる。
圭吾
「……昨日のこと、見てた?」
あこ
「うん。偶然だけど。」
圭吾
「……ごめん。」
あこ
「圭吾くんが誰を好きでも、
私の価値は変わらないって、
言い聞かせてたんだけどね。無理だった。」
圭吾
「本当にごめん。」
あこ
「謝られるの、一番つらいんだよ。」
(あこ、涙ぐみながら笑う。圭吾、何も言えず立ち尽くす)
⸻
〇 夜・ペンション外のテラス
ゆい子がひとり、外で夜空を見ている。翔太がやってくる。
翔太
「……今日もやらかしました。」
ゆい子
「知ってる。ほんと最低。」
翔太
「でも俺、言わなきゃダメだった。
だって、みんな“好き”を抱えすぎてて、
何にも言えないまま、
関係だけ壊れてくの見たくなかった。」
ゆい子
「でもあんたは人の気持ち、壊したよ。」
翔太
「……ゆい子さんは?壊れなかったの?」
ゆい子
(間)
「とっくに、壊れてたよ。」
⸻
♪挿入歌(ソロ:あこ)
🎵「どうしても 声にならない
どうしても 届かない
もしもこの胸が音楽なら
あなたは 聞いてくれた?──」
⸻
〇 ペンション・寝室(深夜)
6人はそれぞれの部屋に戻っている。
•力丸はベッドで目を閉じるが、眠れていない。
•もえは枕を抱えて天井を見つめている。
•圭吾は鏡の前で自分をにらむ。
•ゆい子は枕元のスマホを見つめ、通知を消す。
•翔太はイヤホンをして何かを聴いている。
•あこは布団の中で、そっと涙をぬぐっている。
モノローグ(6人の声が重なるように)
「言わなければよかった。
でも、言わなきゃ──もっと壊れてた。」
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