第2話【表と裏】

〇 稽古場・夕方


圭吾がホワイトボードにスケジュールを書いている。もえとゆい子はアップ中。

翔太はダラダラと椅子に座ってスマホをいじっている。


圭吾

来月末には劇場押さえるから、

それまでに本読みと配役決めるぞ。余裕ないからな。


ゆい子

(ちょっとふてくされ気味に)

主演はもえさんと力丸くんなんでしょ?

もう決まってんじゃん。


もえ

(笑顔だがちょっとトゲがある)

そういうのじゃなくて、適材適所でしょ?


ゆい子

(早口で)うんうん、もちろん!


空気がピリつく。翔太が間を割るように話す。


翔太

俺はよくわかんないけど、

なんか楽しいっすね、こういうの。


圭吾

翔太、お前には“味”があるから、

それをどう舞台で出せるかが鍵だな。


翔太

味っすか。スパイスってことで?



〇 控室・もえとゆい子の二人きり


ストレッチしながらもえが話しかける。ゆい子は微妙な距離を保っている。


もえ

ねぇ、最近どう?バイトとか、芸能の方。


ゆい子

(やや冷たく)ぼちぼち。

でももえさんみたいに

“なんでもうまくいく”タイプじゃないんで。


もえ

(少し驚いたように)え?そう思ってたんだ?


ゆい子

……すみません。なんでもないです。



〇 夜・公園のベンチ


翔太が一人ギターをつま弾いている。

そこへあこが通りかかる。


あこ

おー、ギター青年。こんなとこで何やってんの?


翔太

(ちょっと酔ってる)いやー、練習っす。

てか、酒飲んでるわけじゃないですから。


あこ

……心配され慣れてんな。


翔太

(ぽつりと)なんか、舞台とかって…

ちゃんとしてる人がやるもんだと思ってたけど、

力丸さんも圭吾さんも、

なんか俺にもできる気にさせるんすよね。


あこ

(微笑みながら)あんた、わりと真面目なんじゃん。


翔太

それ、初めて言われました(笑)



〇 稽古後・帰り道・力丸ともえ


ふたりで歩いている。少しぎこちない空気。


力丸

…今でも歌ってて思い出すよ。高校の文化祭。


もえ

……私たち、あの頃は子どもだったよね〜


力丸

(まっすぐ)

今でも、もえと歌うのが一番しっくりくる。

そう思ってる。


もえ

(立ち止まって、少しうつむく)…力丸。

実はさ、職場に気になる人ができたんだ。


力丸

(一瞬黙る)……そっか。



〇 翌日・圭吾の部屋


圭吾が台本を書いている。その横に置かれた写真立てに、力丸ともえと3人で写っている写真。


圭吾、独り言のようにつぶやく。


圭吾

「舞台の上では、嘘も真実になる」──ってか。

……俺は、どうする。



♪挿入歌(圭吾ソロ)


🎵「誰かの背中を押すたびに

 自分の影が薄れていく

 けど、選んだんだ

 あの光に手を伸ばしたことを──」



〇 稽古場・ラストシーン


圭吾が配役案を読み上げる。静かな空気。


圭吾

じゃあ、次回から本読み入る。

脚本、ちゃんと読んでおけよ。

役は──あえて少しシャッフルする。


もえ

……え?私、主演じゃないの?


圭吾

(力丸を見ながら)

今回の主役は、“歌が下手な青年”だ。

翔太、お前に任せる。



(つづく)

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