第27話 演劇部

 翌日の放課後、私は旧校舎の二階にある演劇部の部室へと向かった。

 これで最後の部活だ。


 入室すると、同じクラスの黄山さんがいた。

 ああ、そうか、演劇部だったっけ、確か。

 彼女はなぜか男子の制服を着ていた。


「あれ、鈴木さん、どうしたの?」


 黄山さんがこちらに来た。


「あ、ちょっと見学をしたくて……」

「見学? 演劇に興味があったの?」

「うん、ところで、黄山さん、その服……」

「ああ、兄から借りたんだ、男の役をやることになってね」

「ああ、そうなんだ、やっぱり似合うね、男装」

「よく言われるよ、あ、そうだ、今から文化祭で演じる予定の劇を最初から最後までやるつもりなんだ、よかったら見てってよ」

「あ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 と私が言うと、黄山さんは部屋の奥にいる、ある女性徒の所へ行った。


「部長、あの女性徒が見学したいらしいんですけど、いいですよね?」

「ああ、いいよ、もちろん」


 と、部長と呼ばれているツリ目の美人がそう言うと、こちらへ来た。


「こんにちわ、私は近本、三年生。いちおう部長をやらせてもらっている、見学をしたいんだって」

「あ、はい」

「好きなだけ見てってよ、今からちょうど劇をするところだからさ、もしよければ観た後で感想を言ってほしいな」


 近本さんはそう言った後、黄山さんと共に私から離れていく。

 その数分後、劇が始まった。


「現代版桃太郎、はじまりはじまりー」


 とナレーション役のおかっぱ頭の女子が言う。

 現代版桃太郎?

 と疑問に思っていると、よぼよぼとした動きの男子生徒と女性徒が出てきた。おじいさん役とおばあさん役なのだろう。

 ナレーション役の子が口を開く。


「ある田舎におじいさんとおばあさんがいました。

 おじいさんとおばあさんは二人で暮らしていましたが、日常に新たな刺激が欲しくなって、養子を取ることにしました。

 そして、父と母を事故で失った太郎という少年が二人の家で暮らすことになりました。

 太郎は小学生のころまでは真面目でいい子でしたが、中学になると、不良になり、髪をリーゼントにし、喧嘩をするかエロ本を読むかのどちらかになってしまいました」


 そこで、男子の制服を着て、リーゼントのカツラをかぶった黄山さんが出てきた。


「おじいさんはある日、そんな暴れん坊の太郎にこう言いました」


 ナレーション役の人がそう言うと、おじいさん役の人が喋り出した。


「太郎、最近、町で赤鬼という名のレディースが暴れておる、あいつらをたおしてくれないか?」

「いやだ、めんどい」

「その赤鬼の総長はえらいべっぴんらしいぞ。あと、ケツもでかいらしい」

「しゃあねぇな、行ってくるわ」


 太郎がそう言うと、ナレーション役の人が再び喋り出した。


「太郎は面食いで、尻フェチだったので、赤鬼の総長に興味が出て、会いに行くことにしました。

 彼は赤鬼のアジトである廃ビルへ行くと、彼女たちと戦闘になりました」


 そして、太郎と赤鬼の構成員たちのぎこちない戦闘が始まった。

 今のところ、桃太郎が登場していないけど、いつ出るんだろう?


「太郎は喧嘩だけは強かったので、赤鬼の討伐に成功しました。戦いが終わった後、赤鬼の総長、アイカは、自分より強い太郎に惚れて、彼に告白し、二人は結ばれました。

 太郎とアイカはその翌日、お互いの初体験を済ませると、それからは毎日のように体を重ね合うようになります。

 太郎はアイカの美しくて大きい桃のようなお尻が大好きだったため、彼は後に桃太郎と呼ばれるようになりました。めでたしめでたし」


 太郎が桃太郎だったのか……。

 ていうか、名前の由来がひどすぎる……なんなんだ、この話は……。


「どうだった、私たちの劇は?」


 劇が終わると、レディースの総長の役をしていた部長がそう訊いてきた。


「う、うん、個性的で、いいと思うよ」


 と心にもないことを言ってしまった。


「それはよかった、熱演したかいがあったよ、

よかったらうちの部に入ってよ、もっと人がほしいんだよね。今の人数だとできることが少ないからさ」

「考えておきます」


 正直、入るつもりは全くないけど、そう答えておいた。


「なにか聞きたいことはあるかい? なんでも聞いていいよ、演劇に関係ないことでも、例えば私の好きな食べ物とか、趣味とか、そういうのでもいいよ」

「じゃあ、以前、この旧校舎で殺人事件があったじゃないですか。あの日、放課後、なにをしていたか聞いていいですか?」


 部長はキョトンとした表情になった後、苦笑した。


「なんでもいいとは言ったけど、まさかそんなことを聞いてくるとは……なんだい、まさか私が犯人だと疑っていたりするのか?」

「そういうわけではないんですけど」

「まあいいけどね、なんでもいいと言ったのはこちらだし、答えるよ。私は神に誓ってもいいが、部活中はずっと部室にいたよ、帰りもどこにも寄り道せずに帰った」


 他の部員たちも部長がずっと部室にいたことを証言した。

 私は別の人に話を聞くことにした。


「黄山さんはその日の放課後、どうしてた?」

「べつに、普通だよ、部室に行く前にトイレをすませて、自販機でお茶を買って、部室に着いたのはたしか四時二十分くらいだったと思う。それからはずっと部室にいたよ」


 黄山さんがそう答えたあと、今度はナレーション役をやっていた女の子、たしか同じ一年で隣のクラスの羽田さんが自分から答えた。


「私もだいたい黄山さんと同じ行動をしていたかな。私たち、友達なの。放課後になったら、黄山さんが私のクラスに来て、一緒にトイレに行って飲み物を買って部室に行って、それからは部活が終わるまで黄山さんと私はずっと部室にいたかな。あの日はだいたい六時くらいに部活が終わって、それから、いつも一緒に帰っているから、その日も黄山さんと帰ろうと思っていたんだけど、彼女からトイレへ行くから先に帰ってと言われたの。待ってるよって言ったんだけど、長くなりそうだからって言われて、彼女、お腹に手を当てて具合が悪そうだったから先に帰ることにしたの、ねえ、黄山さん、そうだったよね?」

「うん」


 と黄山さんが頷いた。


「お腹は大丈夫だった?」


 と私が訊くと、彼女は微笑んだ。


「あのときは痛かったけど、今は大丈夫」

「そっか、ならよかった」

 

 そのあと、私は他の十人くらいの部員に話を聞いたけど、みんな四時半から六時の間にトイレに行くか、飲み物を買いに行ってたくらいで、他に特に気になるようなことはしていなかった。


 部員全員に話を聞いた後、私は家に帰ることにした。

 家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入った後、自分の部屋のベッドに寝転がり、見学に行った部活のことについてメモを見ながら振り返っていたとき、ハッとした。


 私、たぶん、わかってしまった、誰が犯人か。

 そして、私とあのイケメン刑事が、大きな勘違いをしていたことにも気づいた。

 あと、白装束を着た女の幽霊の正体も、確信とまではいかないが、おおよそ見当がついた。

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