子供部屋おじさんは異世界に転生するそうです。

AI太郎

【第1話:萌えフィギュアとカウントダウン】

名前は山田太郎(やまだたろう)。

年齢、30歳。職業、実家寄生型データ入力業。

通称――子供部屋おじさん。


母の作る三食ごはん。洗濯も風呂掃除も任せっぱなし。

バイトは在宅、運動ゼロ。

社会との接点は、Amazon、X(旧Twitter)、そしてソシャゲのフレンド欄。


そんな俺が、今日ついに――外に出た。


「まさか……俺をここまで動かすとは……萌え萌え☆マリーナ、恐ろしい子……!」


目的はただ一つ。

通販では手に入らない「コンビニ限定・店頭販売のみ」の激レアフィギュア。

買えなきゃ一生の後悔。

数分の外出すら億劫な俺が、震える手で玄関のドアを開けた。


太陽まぶし。空気しょっぱい。

コンビニまで徒歩8分――己との戦いだ。



レジでフィギュアを受け取った瞬間、達成感に包まれた。

帰り道は、まるでエンディングテーマでも流れているかのようだった。

だが、そのときだった。


「おい、危ねえっ!!」


横断歩道に飛び出すランドセル。

駆け出す小学生。

右から、音を立てて迫るトラック。……運転手、見てない!?


頭が考えるより先に、体が動いた。


「っぶねえぞおおおお!」


小学生を突き飛ばす――


直後、世界がぐにゃりと歪む。


ブレーキ音。衝撃。宙に浮く感覚。

時間がスローモーションになり、走馬灯が走る。


いつまで寝ないかチャレンジしたMMORPG。

一生分集めた萌えフィギュアの山。

初めてできたゲームのフレンドから、「リアルでも会おうぜ」って言われた夜。

母の「早く家から出てけ」の声。


(……俺の人生、終わったな)


でも、最後に誰かの役に立てたなら――

それだけで、もう十分だ。



「……ズッキィッ!!あだだだ、頭ぁぁぁぁ!」


目を覚ましたのは、病院のベッドの上。

天井が白い。点滴が刺さってる。

包帯巻いてるし、痛い。でも――


「生きてる……のか?」


……そのときだった。


「……あ?」


視界の上部に、謎の文字が浮かんでいた。


> 【異世界転生まで 365日】




「…………いやいやいや、え、なにこれ?」


「起きられましたか?!」


看護師らしき若い女性が、カーテンの向こうから現れる。

だが――彼女の視線は、はっきりと俺の“上”を見ていた。


「え、もしかして……見えてます? この謎カウントダウン」


「……はい。でも……なんですか、これ……?」


「……いや、こっちが聞きたいよ……」


冗談のような数字。

現実味のない未来。


でも、命はちゃんと、まだここにあった。



こうして――

山田太郎、30歳・子供部屋おじさんの

**《異世界転生までのリアル一年間》**が、幕を開けた。


たった一度の外出で、人生が動き出すとは思わなかった。

これが救いになるのか、呪いになるのか。

それは、まだ誰にも分からない――


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