第2話/エスカレートする”症状”

エスカレートする”症状”




R子は、長年のお一人様同士で売れ残り仲間であったS美にだけには、決して”先を越されたくないという”一念から、S美の自宅にいわゆる嫌がらせの手紙を郵送で送りつけたのだ。

当然、匿名で…。



その際、”文面”は至ってシンプルとし、要は”今の彼に結婚する気はない。年上女との交際は所詮、好奇心の経験歴つくり…”という警告調の数行に留めたワープロ文書一枚とした。



R子は指紋が付かないよう細心の注意を払い、都内中心部の某ポストに投函した。

会社からは決して近くでない差出しの消印という選択は、いやがらせの主を社内の人間に特定させないという狙いからだった。



実際、受取ったS美からすれば、社内の人間以外で、極端な話、彼の元恋人とかの仕業という疑念が頭をめぐったとしても不思議はない。



***



結局、この時のS美はその手紙をカレに見せる勇気が出ず、この件を打ち明けることはなかったのが…、R子には気を許せる同期の女性ということで相談してきたのだ。

R子はそしらぬ顔で、”仲のいい同期”への気遣う素振りを見せながらも、無難な対応でやり過ごしたのだが…、彼女はS美の心中をちゃっかりと掌握した。



S美が10歳という年の差にかなり負い目を感じていて、いずれ捨てられるのではないかという不安感も抱いてることを、本人の口から耳にしたR子は、してやったりと内心ほくそ笑んでいたのだから…。



もっとも、そんな心ない行為に及んだ自分への罪悪感は当然持っており、幸せを壊す達成感の一方で、強い自己嫌悪に苛まれるという何とも厄介な精神状態に自ら陥らせる状況を招いていた訳で…。



このままだといずれはストーカー行為とか、もっと深刻な犯罪行為を起こしてしまうかも知れないと思い悩んでいたそんなある日のこと!

高校時代の親友であるT代から電話がかかってきた…。



***



R子は自分のビョーキのことを、親友のT代だけには高校を卒業して間もなく告白していた。

T代は20代前半で結婚したが2年で離婚、その後も男運は悪く、ある意味、R子の妬み対象者には達していないせいもあってか、このところのエスカレートする症状も小まめに話していたのだ。



「…という訳でね、その心理療法士らしき先生、シュミレーション型対症療法で実績のある人らしく、スポーツ選手とかもお忍びで通ってるとかって…。私の親類がプロゴルファーと結婚した女性と友達だったんで…、まあ、又聞きでどこまで本当かはわからないけど…。どう?ダメもとで診療を受けてみたら…」



R子はその場で即決した。

確かに、今までと一緒の”精神論”で終わってしまうんだろうという気持ちはあった…。



でも、この時のR子は、T代が口にした”シュミレーション型”という響きに、どこかほのかな期待感を抱いたというところはあった。

さっそく彼女は、その夜のうちにT代から聞きとったその心理療法士のHPにアクセスし、問い合わせフォームから概ねの相談内容を送信した。



そして翌日には返信メールが届き、R子はその週の金曜日夕方、都内某所のにある理療法士W氏の元へ赴き、診療を受けることとなった…。





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