第15話 商会の思惑
「それでアンリ、例の話はどうなりましたか? 灼眼のお眼鏡に叶う人物がいたらいいのですが」
「毎回毎回、儂を経由して人選するな。鍛冶の仕事で忙しいんだが」
「今回の件はあなたも関わってるからいいじゃないですか」
「おかしいな、依頼は剣を造るまでだったはずなんだが。それを送り届けるのと、その人選を決めるのはケリー、お前の役目だろうが」
鍛冶屋の地下室に反響する二つの声。
片眼鏡にピシッとした黒の衣装を着こなす白髪の女性、ケリーと、ジト目を向けるアンリの二人がそこにはいた。
(ああ、相手するの面倒くさい……お嬢さんの剣を作らなくちゃいけないってのに)
ケリーは何かあるたびに自分の異能、鍛冶屋としての目利き能力と勘を利用してくる。
武器職人の視点で人物を見抜けることは認めるが、頼りすぎなのはどうなんだ、と。
アンリは内心で文句を垂れる。
「私の商会に裏切り者が潜伏していないとは言い切れないので、第三者のあなたに決めてもらった方が安全なんですよ」
「……つまり?」
「もし私が直接人選を決めるとなると、私の名を確実に知っているでしょうし、それが信頼に足りえる人物ならいいのですが、私を敵視している人間であれば、どうしても私情が入ってしまう」
――「職業柄、商売敵は沢山いますから」と付け足し、過剰に身振り手振りをして大変さを伝えてくる。
商売人ではなく役者が板につくほどに。
「だから自分の名を通さず外部で信頼できる人物を経由した方が、合理的でしょう?」
「はぁ、ぺらぺらと内情を話すその根性と信頼は認めよう」
色々と喋ったが、要は身内が信用できない、ただその一点であるということ。
だからこいつは何かと理由をつけては、自分を外の目として使いたがる。
信を置いていないのは、敵だけじゃないということ、か。
それなりに理屈も通ってるからこそ、面倒くさいことこの上ないな。
だが、確かに直接手を下せない事情もあるのだろう。用心深さと臆病は紙一重だが、商売で生き残るなら後者の方がよほど必要な資質なのは間違いない。
……となれば、どうしても断りきれない雰囲気になってくる。
(相も変わらず、こすい女だ)
依頼を受けた人が、背景にある政治や商会の都合に巻き込まれず、「儂から頼まれた仕事」で完結できるという点。
万が一トラブルが起きても、「誰が依頼人か」は不明のままなので、報復や脅迫の対象にもなりにくいのもある。
そして、ケリー自身も直接関与せずに済むので、証拠も残らず、責任も回避でき、仮に身代わりが失敗しても自分の選定が悪かったで処理できる余地がある。
依頼内容を一段ぼかすことで、潜在的に対立しうる脅威に対して「正面から関与していない」という建前が立つ。
(まったく、綺麗な空色の瞳とは裏腹に、腹の底はどす黒くて敵わん)
「ッチ、まあ三人は決めてある」
「おお! さすが私の親友です!」
時々こうして調子のいいことを吐くケリーの言葉を適当に交わしつつ説明するアンリ。
「成人の男一人と女一人、そして少女が一人だ」
「……おお? 少女ですか?」
「そうだ」
少女という言葉に引っかかるケリーは、親友の言葉を信じつつも、どこか懐疑的な表情を浮かべた。
「一応聞きますが、腕は立つので?」
「当たり前だろ。お前の言った条件とは合ってるはずだ」
一つ、目立つ人間であること。
二つ、名が通ってないこと。
三つ、ケリーとの直接の繋がりが無いこと
四つ、アンリが信用できる人物であること
五つ、諜報や暗部の事に対する無知または興味のなさ
「目立つ見た目と実力を持ち、無名で、ケリーと関係がなく、割り切って動ける人間。全て該当する」
「アンリがそこまで言うなら信じます。まあ失敗したら私の首が飛ぶだけなので、もしそうなったとしてもアンリは気負わないでくださいね。私の無茶でもあるので」
「ケリー、それくらい言うならせめて信頼できる部下を育成しろと何度も忠告しただろ」
「はは、ごもっともです」
それでも、目の前の人物は変わらない。
大商会ルイベルグの一人娘として生まれた彼女は、二世としてその商会を率いることとなった。
才色兼備。能力はあったが、亡き会長である親のカリスマ性には敵わず、誰も彼女のことを認めることはなかった。
結果、用心深く、他人の能力を正しく見抜く審美眼もあるのに、部下育成や信頼の分散は大の苦手。
少数の信頼できる人材に依存しがちである。
だからこそ――……。
(この信頼も、不安の裏返しなんだろうな)
「まあそう心配するな。儂の鍛錬した聖剣を王都に運ぶだけの簡単な仕事だ。そうだろう?」
「さすがアンリ。仕事ができる人間の面構えは一味違いますね。見習いたいです」
「嫌味か?」
「尊敬と言ってほしいですね」
「皮肉遊びは商売敵相手だけにしとけ。儂は付き合わんぞ」
「それは残念です」
(ならもっと残念な顔しろよ)
腑抜けた笑顔を見せるケリーに対して、切に思うアンリだった。
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