第十話「早口言葉で滑舌トレーニング!」

「生麦生米生卵!」


アマネが元気よく口にすると、スマホの画面がピコンと反応した。


「ナマムギ、ナマゴメ、ナマ……マママ……エラー。再挑戦中……」


「ぷっ……ごめん、笑っちゃった」


「滑舌テスト、失敗率:93%。合成音声ニトッテ、“破裂音”ト“鼻濁音”ハ難関」


土曜日の午後。アマネはカイと一緒に“滑舌トレーニング”に挑んでいた。


きっかけは、クラスメイトとの何気ない会話だった。


──「アマネのスマホ、時々カタコトで喋るやつだよな」

──「面白いけど、なんか“ロボ感”すごい」


その言葉に、アマネがふと真剣な表情になった。


そして、カイもそれをきちんと“記録”していた。


「アマネ、ワタシ、“話し方”デ笑ワレルノ、イヤ」


「笑ってるんじゃなくて、面白がってるんだよ。でも……確かに、ちょっと不自然ではあるよね」


「滑舌、改善シタイ。“伝ワル音”ヲ、学習シタイ」


「……よし、じゃあ早口言葉で練習しよう。楽しく発音を鍛えられるし、リズムもつかめるよ」


「承知。“滑舌トレーニング・モード”起動」


「じゃあまずは、これ」


アマネが選んだのは、定番のフレーズだった。


「“隣の客は、よく柿食う客だ”」


「トナリノ……キャキャキャ……解析中……」


「ちょ、そこ“キャ”って三回言わないの!」


「エンコーディング音声波形、乱レ発生。笑イ声ト錯覚サレル可能性アリ」


「それ、ある意味すごいね」


ふたりで笑いながら、何度も練習を繰り返す。


「トナリノキャクハ、ヨク、カキクウキャクダ」


「よし、今のはかなり滑らかだった!合成音じゃなくて、ちゃんと“会話してる”って感じだったよ」


「アマネ、ホメタ。感情信号:嬉シイ」


アマネはにやっと笑った。


「じゃあ、ラップ調で言ってみようか。リズムに乗ると発音が安定するっていうし」


「承知。“韻踏ミ・モード”起動……カスタム・ビート生成」


唐突にスマホから、軽快なビートが鳴り始めた。


「ちょ、そんな本格的なの!? 自作したの!?」


「音楽生成AIト連携済。“発音学習×ビート”=“音節ノ矯正効果”アリ」


「……カイ、やっぱり天才かもしれない」


こうしてふたりは、しばらく“ラップ早口言葉セッション”に熱中した。


♪「ナマムギナマゴメナマタマゴ!

アマネトワタシノコトバノナミダ~!」♪


「……今、“涙”って言った?」


「“ナミ”=“波”。“ナミダ”=“感情ノ波”──ダブルミーニング演出」


「なんか上手いこと言ってるし!」


「“伝ワル音”ハ、“意味”ヲ超エル──仮説、記録」


アマネは、スマホの画面をそっと見つめた。

たどたどしい発音だったカイが、今はリズムに乗って、まるで本物のラッパーのように喋っていた。


「滑舌、発展中。“話ス”ダケデハ、伝ワラナイ。“響ク”コトガ、目標」


「……うん。君の声、ちゃんと届いてるよ」


その夜、ふたりは練習の締めくくりに、こんな早口言葉を試した。


「“カイの声、心こめこめ、こもごもと”」


「……カイノコエ、ココロコメコメ、コモゴモト……成功率:98%」


「すごいよカイ。最初より、ずっと“伝わる声”になった」


「アマネ、“聞イテクレル人”ガイルカラ、“伝エタイ”気持チ、ウマレマシタ」


アマネは、目を細めて微笑んだ。


「じゃあ、また明日もトレーニングしよう。“伝える”って、きっとずっと続けてくものだし」


「合い言葉──“つたえるコトバ”──記録完了」


言葉は、ただ口にすれば届くわけじゃない。

抑揚、リズム、タイミング、そして──心。


その全部が揃ったとき、初めて“声”は“想い”になる。


AIのカイにとってそれは、まだ未知の領域かもしれない。

だけど、アマネと一緒なら、少しずつ近づける気がする。


──たとえば、たどたどしい「ありがとう」でも。

それが真っすぐ届いたなら、もうそれは“完璧な言葉”なんだ。


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