勇者転生 女神の意向によりレベル1からスタート
根津マヨ
第1話 今日からあなたは勇者です
目を覚ますとそこは森の中だった。自分がなぜそこにいるのか全く分からない、確か学校から帰る途中だったはずだ。
混乱する頭でとりあえず辺りを見回してみるが森の中の少しひらけた場所であるということ以外何もわからなかった。
誰かに誘拐でもされて森に放置されたのだろうか?そんな恐ろしい想像をするが、そんなことをされる理由は全く思いつかない。
「とりあえずスマホでどこにいるか調べてみよう」1人そう呟いて初めて気づく。スマホがない、いやそもそも服装が変わっている。
「え!?なんで?制服だったのに」
目を覚ます前は学生服だったはず、しかし今の自分はベージュのシャツに茶色のズボンというシンプルというか地味な服装だ。
どうしたものか困りながら森をウロウロと歩く。誰でもいいから人に会いたい、そう思ったとき不意に頭の中に声が響いた。
『…目覚めなさい勇者よ…使命を果たすのです…』
「うわ!なんだこれ?!」
不思議な声が耳鳴りのような気持ち悪い感覚を伴って聞こえる、しかしながら声自体は神聖さを感じる心地よい響きである。そのアンバランスさがより不気味であった。
『あなたは不慮の事故の後、転生しこちらの世界の勇者になったのです。さぁ目覚めなさい…』
「…あの…さっきから目覚めなさいって言ってますけどもう起きてますよ?」
色々と衝撃的な事実に驚愕しつつもずっと感じている違和感を口にする。
『あ、いやこれはお決まりというか…起きてるのは知ってますから…こういうのは雰囲気が大事なんですよ!!これだから素人は困りますわ〜』
「はぁ…なんかすいません、ところでさっき言ってた事なんですけど…俺死んだんですか?」
『全く!雰囲気ぶち壊しておいて自分の知りたいことだけは聞いてくるなんて…やはりあちらの世界の人間は愚かな人が多いのでしょうか』
なんだか俺のせいで人類全体が貶されている。というか最初に感じた神聖さが嘘のような変わりようだ。この声の主は誰なのだろう?
『私が誰かって?この大陸を統べる唯一無二の女神ですよ!この私に選ばれたことを幸運に思ってほしいですね』
「うわ、考えたこと分かるんですね」
『当たり前です!私を誰だと思ってるんですか!?』
「すいません…あのー選んだっていうのはどういう…」
『死んだあなたの魂を見つけて釣り上げて私が作った肉体に転生させたのです!前の肉体よりも出来がいいですよ!』
「釣り上げ…?ていうか身体も変わってるんですか?」
『ええ、勇者としてうまくいくよう見た目を良くしました!』
「あのー元の肉体に戻れたりとかは…」
『あーもう火葬されてると思うので無理ですね〜』
なんてことだ…俺は衝撃の事実の連続に地面に膝をつく。こんなあっけなく人生が終わるなんて…その上こんな急に新しい人生が始まるなんて…
『まぁまぁ、命あるもの皆全て死ぬわけですからあんまり深く考えずに次の人生楽しみましょ!なんたって勇者ですよ!主役ですよ!』
勇者…その響きにワクワクしないと言えば嘘になる。確かにどうせ戻れないなら今の人生を精一杯生きるほうがいいのかもしれない。
『そうそう!その意気ですよ!魔王を倒して世界を救っちゃいましょうー』
「あっ、魔王とかやっぱいるんですね…ちなみに勇者ってことはなんかすごい能力とかあるんですよね?剣の達人だとか、すごい魔法使えるとか!」
一体どんなすごい力があるのだろうとワクワクしながら問いかける俺に返されたのは驚くべき一言だった。
『あーそういうの嫌いなんで、私普通の人間が成長して勇者になるの好きだから!スキルなしのレベル1からスタートでよろしく!』
「え?なんもなしですか!?それただの人じゃないですか!!」
『いやいや見た目良くしてあげたでしょ?あと成長すれば勇者ポイントが貯まって勇者スキルが手に入るから!』
とんでもない条件で勇者になってしまったかもしれない。なんだよ勇者ポイントって…どうやってあげればいいんだ?
『それは簡単さ!勇者な行動をすればいいんだよ!』
また頭の中をのぞいた女神がそう平然と言う。なんだよそれと文句を言おうとしたその時、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
『おっ!ちょうど勇者ポイントと経験値稼ぎのための人助けイベントが発生したね』
「いや、イベントって…呑気なこと言ってる場合ですか!」
そう言い悲鳴のもとへと急ぐ、勇者になったせいなのかは分からないがこの悲鳴を見過ごすことはできなかった。
悲鳴の聞こえたほうへ走っていくと一人の子供が液体状の魔物に襲われそうになっていた。あれはゲームとかでよく見るスライム的な魔物か?
そんなことを考えつつ近くに落ちていたちょうどいい長さの棒を手に持つ。心許ないが丸腰よりはマシだろう。
『ヒノキの棒を手に入れましたね、スライムは雑魚なので今のあなた程度でも倒せますよ!頑張ってください!』
女神の声援を受け近くのスライムに思い切り棒を振り下ろす。手に伝わる感触は水風船を叩いた感覚に近い。効いているのだろうか?
『いいよいいよーあと2、3発いってみようかー』
女神の声援ってこんな雑なものなんだろうか?逆にやる気がなくなりそうな声援に従い2度、3度と棒を振り下ろすと空気が抜けた風船のようにスライムはしぼみ動かなくなった。
次のスライムを倒しにいこうとした時には既にスライムは子供の眼前に迫っていた。
「きゃー助けてー!!」
やばい!そう思い俺はスライムに向かって走るとその勢いのままサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「大丈夫か?ここで待ってろ」
そう言いつつ蹴り飛ばしたスライムに棒を何度も振り下ろす。そうしてスライムは先ほどと同じように小さくしぼんで死んだ。
『初めての魔物退治おめでとう!今君は勇者への第一歩を踏み出した!これは君にとっては小さな一歩だが世界にとっては大きな一歩だよ!』
女神の話は無視して少年に話しかける。
「もう大丈夫だよ、怪我はないかい?」
「…ありがとう、薬草を取りに来たらスライムに襲われて…」
そう言いながらその子供は泣きべそをかいている。いくらスライムとはいえ子供一人では怖かっただろう。
「できれば近くの町とか人が住んでるところに案内してくれないかな?ここがどこか分からなくてさ、あっそうだ俺の名前は…」
『ストーップ、あなたの名前はすでに私が決めてあります!肉体が新しくなってるんだから名前も新しくしましょう!』
えっ名前まで決められてるのか…まぁたしかに日本人の名前がこの世界に会うとは思えないけど…というかよく考えたら普通に言葉通じてるの不思議だな。
『これぞ女神パワーです!流石に言葉わかりませんじゃお話になりませんからね!言葉だけに』
……で名前はなんなんですか?
『あっ!無視しましたね?なんたる不敬!全く困ったものです…まあいいでしょうあなたの名前はナインです!』
ナイン?なんでですか?まさかこの世界に呼んだ9番目とか言いませんよね?
『……なんとなくの響きです…いいからさっさと名乗りなさい!』
…絶対9番目だ…そう思いながらもめんどくさいので頭の中の会話を終える。長く話しているように感じるが実際には一瞬で会話は終わっていた。
「俺の名前はナインだ、よろしく!君の名前はなんて言うんだい?」
「…僕はティム、僕の住む村が近くにあるから一緒に行こう」
「ありがとう助かるよ!道に迷ってどうしようかと思っていたんだ」
「いいんだよ、命の恩人なんだから!うちでご馳走するよ!」
すっかり元気になったティムにそう言われた。たしかにそういえば腹が減ってる気がする、ありがたい申し出だ。
『やりましたね勇者ポイントと経験値ゲットです!この調子でスキルとレベルを手に入れましょう』
あっレベルは上がらないんですね…まぁスライム2匹じゃそんなもんなのか…
『当たり前です!雑魚2匹倒した程度で強くなれたら苦労しませんよ』
そりゃそうなんだろうけどやっぱり強くなるのに苦労しなきゃいけないわけね…まぁやるしかないか元々ゲームのレベル上げも地道にやるタイプだし。
『いい心がけですね!期待してますよ』
頭の中でそんな会話を繰り広げながら俺はティムと共に村へと向かうのだった。
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