第2話
「――ということで、今回私は海外旅行へ行こうと思う」
「いってらっしゃい」
即答したかりなに、星波は大仰に嘆息する。
「まだ想像力を鍛えていないのか?」
「そんなすぐには無理だって」
「なんだ、鍛えているのか」
「気が向いたときにね」
そう言って、よっこらせとこの前座った星波の隣の席ではなく、その前の席に座る。
「おい、その席はやめておけ。そこの女子は香水臭が凄い。座るだけでお前に臭いが移る。……私は香水の臭いが嫌いだ」
「えー、まきちゃんいい匂いするじゃん」
「誰だそのまきちゃんとやらは」
「ここの席の子」
「随分と仲がいいんだな」
「まあ同じクラスだし」
「そうか。だがそれよりもだ。そもそも私の方がいい匂いだろ? 学校一美人の私が言うんだ間違いない」
「またそれ? いい匂いなんて人それぞれでしょ」
「お前は私からいい匂いがしないと言っているのか?」
「言ってないよ。いい匂いするよちゃんと」
「ふっ、ならいい」
「なんで誇らしげなの……?」
「それで、私とそいつ、どっちがいい匂いだ?」
誇らしげに笑ったかと思えば真剣な顔で問いかける星波に、かりなは戸惑いながら考える。
「えぇ……」
なかなか出ない答えに、星波は努めて冷静に語り出す。
「ちなみに、匂いは慣れてしまうらしい」
「あー……」
「私の方がお前と共にいる時間が長い。つまり、そいつの方が私よりもいい匂いだと答える可能性が高いんだ。もしそう答えてもなにも言うまい。それとも、私の匂いをよく嗅いでみるか?」
「確かにそうだ」
星波の提案に乗ったかりなは席を立ち、未だに突っ伏している星波の背後に回り、星波の首元に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。
「どうだ?」
「まきちゃん」
「……そうか。なら離れろ邪魔だ」
「なんで急に不機嫌になるの……?」
「そいつの香水の臭いがお前についていてな。臭いが移ると敵わん」
よっこらせと顔を逆方向に向けた星波の顔は見えない。
星波はどんな表情をしているのか分からないが、その態度に文句を言いたくなる。
「昔からそうだけどさ。自分から言って勝手に不機嫌になるのやめてくれない?」
「そうだな。私が悪いな、提案するんじゃなかった」
「その拗ねるの嫌なんだけど。なんで拗ねてるか知らないけど」
「今日は随分と反抗するじゃないか」
「友達悪く言われたら当然でしょ?」
「友達だと……?」
「そう、友達。いくらあんたでも、わたしの友達を悪く言われるのは嫌」
「…………そうか」
辛うじてそう返したが、かりなはなにも言わない。
もしかして帰ってしまったのかと、不安になって向きを変えてみる。幸いにもかりなは帰っていなかったが、腕を組んで星波を見下ろしていた。
謝れということだろう。それは星波自身も解っている。確かに、星波もかりなのことを悪く言われたらそいつを地獄に叩き落としてやろうと考える。
「すまんな」
「は?」
「…………ごめん」
「はあ……謝る時ぐらい体を起こしたら?」
より一層目が冷たくなったかりなを見て、胸が締め付けられる思いをした星波は素直に体を起こす。
「ごめん……なさい」
「ん」
それでいい、と頷くかりなにホッとした星波だったが、それから最終下校時刻まで、かりなにお説教をされるのだった。
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