第四章 取引の真相
第38話
ああ、なんてことだろう。
私はてっきり生糸の取引の話だと思ったからこそ、こっそり会いに行ったのだ。人目をしのぶからには公正な取引ではないと覚悟はしていたが、私のような新参者の商人は少しくらい危ない橋を渡らなければ新規の開拓などできないのだ。
だがまさか、あんな「臭い泥ダンゴ」を押し付けられてしまうなんて。
あのロクデナシの通訳め。こちらの言い分を伝えもせず、勝手に商談をまとめおって。
そのうえ盗人に入られて、片腕とも頼りにしていた番頭を殺されてしまった。泣き面に蜂とはこのことだ。
おかげで奉行所の役人には痛い腹を探られた。
油紙で幾重にも包んだって、ダンゴのあの臭いは漏れちまう。誤魔化そうと、花匂の香袋をその上に置いていたのだが。あの香袋も役人の手に渡っていた。ああ、もう何もかも調べがついているのかもしれない。
あのダンゴ、少し減っていなかったか? やはり盗人が持ち出したに違いない。
なんてこった。どうせ盗むなら、いっそ全部持っていけばいいものを。
大変だ。お上に知れたなら、ここまで苦労して築いた身代が水の泡だ。それどころかこの首だってどうなることか。
頼みの綱の竹脇さまはなんとかしてやるとおっしゃったけれど、このところとんと音沙汰なしだ。
ああ、この桐生屋はどうなってしまうんだ……。
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