第8話 帰還
「正規軍の派遣は出来ないと……」
国境要塞が撤退を開始する数日前。国境要塞から離れたモリニア東部の要衝レスノーのモリニア軍指令室で二人の女性が司令官と対面していた。
アカネたちに訓練を付けた職員と、その知人らしき少女だった。
「軍を出すと中央議会から文句を付けられる。とのことだ」
「しかし、国境が変わるかもしれないのですよ……?」
「あの活動家どもはそんなこと考えちゃいないさ。軍事的行動のすべてを目の敵にしてるからな。どうせ外交で取り戻そうとでも考えているのだろう」
それがあまりにも甘い考えであることは、少女にも明らかであった。
議会を事実上支配しているかつての活動家たちは西側と東側の国境が変わることを問題視しているようだが、問題はそこではない。
国境を開けることが問題なのだ。
もし仮に外交によって国境を取り戻せたとしても、その間に工作員でもゲリラでも入り放題になり、下手を打てば国の存亡にかかわる。
あいつらは国が制圧されようともモリニア軍に文句を言い続ける気だろうか。
「だからこそ、君たちの力が必要だ」
「本来なら軍属でもない君の力を借りるのは避けたかったが、今ここで
「いいえ、私もお姉ちゃ……ハタエ博士の
「ありがとう、任せたよ。フラウ博士、サヤカ君」
司令官との会話の後、フラウと呼ばれた職員と、サヤカと呼ばれた少女は、格納庫に寄っていた。
彼女たちの目の前にあるのは、一人の巨人だった。
スレイプニルより少し小さな体躯は、真っ黒な金属に覆われている。
夜の闇を人型に圧し固めたような巨人はスレイプニルよりずっと鋭利なフォルムを持つ外装に覆われ、それの持つ役割の違いを感じさせた。
「これが、私たちの手元に残された、唯一の第三世代ティターン・ドール……」
「最後になんか、させません。そのための『グラニ』です。」
グラニと呼ばれた第三世代
――――
「撤退だ!!早くトラックへ!!」
「全員乗れる!!落ち着け!!」
国境要塞の輸送用トラックのトレーラーでは、我先にと2台のトラックに乗り込もうとする兵士と格闘している輸送班の兵士が。
要塞の中で最も大きなホールには、生き残った3機の
それぞれがそれぞれの方法で来るべき時を待っていた。
要塞の砲台は自動発射にセットされていて、弾薬の消費など一切考えずに目につく敵にバカスカ撃ちまくっているが、突破されるのはさすがに時間の問題だろう。
「生き残ったのは、三人だけ……」
「運が良かったのよ、きっと生き残った意味がある」
「……そうだね。帰るんだ、私たちは」
アカネが見ていたものは、2か月前に初めて乗り込んだ時とは大きく様変わりしたコックピットブロックだった。
傷一つついていなかったモニターは、端々が欠けて、左のモニターは付いたり消えたりしている。
コックピットブロックの内壁も所々へこんだり、穴が開いている場所もあった。
モニターに画面を出して、残っている武器の確認を行う。
残っている武器は、唯一ほとんど消耗していない右腕部に内蔵されたナイフ、所々刃こぼれした長剣と最大装填数の7割ほどしか装填されていない内蔵機関銃。
少々心もとないが、撤退のための時間稼ぎなら、ぎりぎり足りるだろう。
要塞の壁が崩されたことを機体の音響センサーが感じ取る。
「……行くよ」
「きっと、いや、絶対。これが最後だから」
3人にとっての最後の戦いは、まさに激戦だった。
射程と物量で劣る3人は、本来
この1か月で敵は要塞を崩したりしないと確信した上での作戦だったが、見事に成功。
敵部隊を分断し、各個撃破しつつあった。
「いけぇぇッ!!」
胴体を串刺しにされた状態でも懸命に銃口を
残りの弾の半分をばらまき、敵の身体を突き刺した長剣ごとズタズタにすると、剣から手を放し、後方――
一方、
「アカネは!!まだなの⁉」
「今最後の1機を撃破したと……わぁっ⁉」
「させるかァッ!」
すかさず追撃を入れようとした敵の傍の壁が崩れ、
壁に叩きつけた敵に左腕の機関銃を乱射しながら彼女は叫ぶ。
「アンナ!!グレネードを!!」
その声を聴くや否や、
グレネードの爆発から飛びのいた
「今だ!脱出を!!」
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