第19話 完璧な秩序がもたらす学園の未来、そしてキンボルトン城の影

 レンが作り上げた「完璧な秩序」の学園は、まさに彼の理想郷だった。データによって最適化されたカリキュラム、無駄を削ぎ落とした効率的な運営、そして常に高みを目指す生徒たち。学園の評判はうなぎ登りで、国内外から視察団が訪れるほどの存在となっていた。しかし、その輝かしい表層の裏には、ある種の息苦しさと、レン自身が知らず知らずのうちに追い詰めていた現実が横たわっていた。


 赤の間の孤独、白のホールの喧騒

 学園の最奥、最高機密とされるデータサーバーが置かれた「赤の間」で、レンはただ一人、膨大なデータを凝視していた。彼の視線の先には、生徒一人ひとりの学習履歴、行動パターン、そして精神状態までが詳細に分析されたグラフが並ぶ。彼の完璧な秩序は、生徒たちのすべてを数値化し、管理することを可能にしていた。しかし、その完璧なデータは、時に彼の想像を超える事態を示唆し、胸の奥に薄暗い不安を募らせていた。

 一方、「白のホール」では、最新鋭のAIが管理する自習プログラムに没頭する生徒たちの姿があった。彼らは皆、与えられた課題を淡々とこなし、定められた目標に向かって突き進む。そこには、以前見られたような自由な発想や、仲間との談笑はほとんど聞かれない。効率と規律が徹底された結果、生徒たちの個性は均一化され、まるで量産された優秀な人形のようだった。


 緑の間からの囁き

 そんな学園の異変に、一部の生徒たちは薄々気づき始めていた。特に、歴史と文化を学ぶ「緑の間」で学ぶ生徒たちは、学園の現状を過去の歴史と照らし合わせ、不穏な空気を感じ取っていた。彼らの中でも特に歴史に造詣の深い生徒たちは、ある伝説に導かれるように、学園の奥深くに隠された秘密にたどり着く。

 それは、学園の創設者の一人であり、レンの祖先でもあるとされる人物、そして、かつて「キンボルトン城」で幽閉された王妃「キャサリン・オブ・アラゴン」の物語だった。


 キンボルトン城の亡霊

 キャサリン・オブ・アラゴンは、かつてイングランド王「ヘンリー8世」の最初の王妃でありながら、男子の後継者を望むヘンリー8世によって離婚を強要され、最終的には辺境のキンボルトン城に幽閉された。彼女はそこで、忠実な侍女の「ジェーン・シーモア」の献身的な支えを受けながらも、孤独と絶望の中で生涯を終えたという。

 緑の間の生徒たちは、学園の厳格な管理体制と、キャサリンがキンボルトン城で経験した閉塞感を重ね合わせた。レンの完璧な秩序は、まるでヘンリー8世がキャサリンを追い詰めたように、生徒たちを精神的に追い詰めているのではないか。

 ある日、一人の生徒が緑の間で古い書物の中から一枚の古びた地図を発見した。それは、キンボルトン城の隠された通路を示すものだった。そしてその地図の片隅には、謎の文字が記されていた。「カタリナ…」。それは、キャサリン・オブ・アラゴンのスペイン名だった。

 その地図は、学園の地下、かつては「ロンドン塔」と呼ばれた秘密の場所に続いていると噂されていた。生徒たちは、レンの「完璧な秩序」の真の目的、そして隠された学園の闇を解き明かすため、その地下へと足を踏み入れる決意をする。彼らは知らなかった。その先に待つのが、歴史の亡霊なのか、それとも新たな秩序の幕開けなのかを。

 

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